第49期 #6
午前1時。嬌声が住宅街の眠りを切り裂く。向かいの家の犬が吠える。続けて隣町の犬も吠え出す。
「もお!のめないっていってるじゃなあいいー!」
ろれつの回らない大声に、私はカーテンの隙間から様子を伺った。
若い女の子が道路で大の字になっている。他にも何人かの男女が場違いな大声で笑いあっていた。
どんなに飲んでも、私はもう、あんなふうに酔わないだろうなと思う。いや、酔えないだろう。世界の中心が自分だった頃はもう遠いのだ。
カーテンを押して、夜風がまだ淡い娘の髪を揺らす。おぼつかない小さな手が私を不器用に探す。そっとその手に触れると、思いがけず強い力で握り返された。
瞬きする時間で君は成長していく。いつか、あんなふうに酔っ払って道路で寝たりするんだろうか。そして私はしっかり親の顔をして、叱ったりするんだろうか。あんな時代が自分にあったことなんて、すっかり忘れて。
外の嬌声はやがて静まる。男の子の一人が、女の子を背負って、近くのアパートへ引き上げていった。何人かは駅の方に向かう。「じゃあねー、ゆみー!」「またねー!」その声にまた、犬が吠え出した。あちらで、こちらで。
やがて夜は、面白おかしく君を誘い出すだろう。眠っていたらもったいないと。けれど今はただ、今はただ静かに眠れ。