第49期 #12

揶揄よ

 東日本最大の遊園地『アミューズメントジャパン』のお化け屋敷は入場料として金やチケットを取らず、代わりに入場者が自覚しているコンプレックスやトラウマを一つ記帳するということが求められたので、私はジャイアンツの高橋由伸がホームランを打ったのを見て大はしゃぎしていたら父に「その由伸は偽者だよ。本当は由伸のぬいぐるみを着た種田仁なんだ」と言われて以来、野球が大嫌いになってしまったことを書いた。ユミと恵子は「あはは、意味わかんなーい」と言いながら観覧車の方に行ってしまった。その「意味わかんなーい」が私の事件の内容を指しているのかお化け屋敷のシステムについて言っているのかは分からなかったが、断りなく別行動をすることなど私たちの間では日常茶飯事だったので、私は気にしなかった。
 それよりも私が気にしたのは隆志が記帳した内容だった。その内容によれば、彼は毎晩9時から9時30分まで柔道着の上を着せたぶっとい丸太をバットで滅多打ちする日課を持っているらしかった。ストレス解消のためではなくて、服が憎くて仕方がないから服を痛めつけているらしい。なぜ服の中でも柔道着が選ばれているのかと訊くと、破れにくく長持ちするからだと答えた。なぜ丸太に着せるのかと訊くと、殴りやすいからだと答えた。
「なぜ服が憎いの」
「俺を不幸にするからだ」



 服がこの世になければみんな服を着ずに生活するから、みんな身体や性器を晒して歩くことになる。『身体を覆い隠す』ということが当たり前ではなくなるために、羞恥心もなくなる。「あいつ眉毛太いな〜」とか「眉毛繋がってるな〜」とか言うのと同等の語気で陰毛が批評され、性器が観察される。体育の時間などには女子が汗と共に股間から愛液を流し、グランドはムッとする性臭に包まれ、男子はそれを嗅いで陰茎を勃起させて100メートル走で射精する。なるほど、それが競馬であれば陰茎の長さも勝敗に関わってくる。「写真判定では陰茎をじっくりと観察しただろうに!」と呻いて隆志は受付の机をドンと叩いた。しかし人間の競走は競馬のように判定しないし陰茎も勃起させない。私がその旨を伝えると、隆志はもう一度机に握り拳を打ちつけた。



Copyright © 2006 Revin / 編集: 短編