第49期 #10
ベートーヴェン「エリーゼのために」
たららららららららぁ〜ん
たらららぁ〜ん
たらららぁ〜ん
たららららららららぁ〜ん ・・・・・・
夕日色に染まった音楽室。ピアノの前で、オレはなぜか前に一度聞いただけの「エリーゼのために」がピアノで弾けている。
その音楽室には、女の音楽の先生と、僕と同じ、学生服を着た女の子がいる。二人とも顔に見覚えない。
オレは右手だけの演奏だけど、エリーゼのためにのメロディを、つたないながらも弾いている。
たららららららららぁ〜ん
たらららぁ〜ん
たらららぁ〜ん
たららららららららぁ〜ん ・・・・・・
女の先生は、ピアノの前に座るオレを見て、それは霊を呼んでしまうメロディだと、弾いてはいけないと言う。夕日色に染まっていた教室が急に青暗くなっていく。でもオレはなぜか右手を止めようとしない。エリーゼのためにを、もっともっと上手く弾けるようにと、メロディを奏で続ける――――――
ふと目が覚めて、興奮で頭の血がゴロゴロざわついてる。むくりと起きて、頭が冷えるのを待ちながら、
「エリーゼのためにって、悲しい曲だったっけ」と考える。
時計はまだ朝五時前。もう落ち着いたかと、枕に頭を乗せるけど、まだゴロゴロ鳴っている。その音は、オレの頭の中からなのか。外なのか。
どうやら頭の外らしい。もしやドロボウかと、電気を点けて耳をそば立てる。
しかし、ゴロゴロは家の外からのようだった。廊下の電気を点けて、階段へ行き、窓から外を見た。
外は青暗い。夢の中を思い出す。するとピカッと1回光った。音の原因はどうやら、雷雲らしい。まだ遠くの方だ。
ゴロゴロゴロゴロ、いつまで経っても止めようとせずに鳴り続けるこの音は、地球がどうかしてしまったのかと、不安になる。
階段を下りて、愛犬のカルトが怖がってないかと思って見に行ったら、案の定、ゲージのとなりに大人しく座って、ぶるぶる震えていた。
大丈夫だよと、抱きかかえてあげるけど、ぶるぶるぶるぶる震えが止まらない。抱きかかえてるオレの体も、痙攣してるのかと勘違いするくらいに。
カルトは、外の音を聞いて、今にもどうかなってしまいそうに震えている。
雷鳴は今もまだ続いている。
バラバラバラバラ、急に夕立のような雨が降ってきた。