第48期 #6

ファニーゲーム

僕とイオは6月の湿った部屋でピンチに吊るされた婦人用ソックスのように退屈していた。風呂を沸かしている間に二人とも眠っていたせいで気が付くと部屋の中には蒸気が立ちこめていた。慌てて風呂場を覗くと湯は沸騰せんばかりでグツグツと煮え立っていた。これだけ沸かせばいつものナメクジはもはや出てこないだろうな。乾燥麺を三袋分浴槽に放り込むと数分後には見事に麺が茹で上がった。粉末スープを流し込んだところでこんなに大量の湯に味が付くわけもなかろうとやめた。箸で長い時間をかけてざるに麺をあげると猫のスバルがもの欲しそうに僕を見つめているので麺をくれてやった。麺を咀嚼する彼女に気を利かせて先ほどの粉末スープを少しかけてあげると彼女は噎せてクシャミを繰り返した。
日が暮れかけた頃にミッチーとアイがやって来た。彼らも殺人的に退屈していた。イオはその頃には幾分意識を回復させつつあったのだが二人の登場を見て意識をニュートラルに保つことにしたようだった。全くいつものことだ。
冷凍庫一杯に入れておいたズブロッカを三本空けるとミッチーがゲームをしようと繰り出した。アイはへらへら涎を垂らしている。いつものゲームだ。僕はイオと二人で作った54枚のカードをミッチーに渡す。主語、述語、目的語別に18枚ごとに分けられたものだ。ミッチーとアイのを合わせて108枚。四人で公平にシャッフルするとゲームが始まる。割り箸での抽選の結果まずはアイからカードを選ぶことになる。
〈ミッチーが〉〈スバルを〉〈レンジでチンする〉
ごめん、家にはレンジはないんだ。僕は先日レンジを捨てていた。そうなんだ、良かったホントに。一瞬どうしようかと思ったよ、とミッチーはほっと胸を撫で下ろす。アイはそれを見てへらへら笑っている。
イオの番。
〈王貞治が〉〈北朝鮮を〉〈引退する〉
ミッチーとアイが舌打ちする。全然面白くねえと。3枚のカードとも偶然にも僕とイオが作ったものだ。僕とイオは無理して笑う。結構面白いじゃない、と。
僕の番。
〈アイが〉〈僕を〉〈平手で叩く〉
一枚目と二枚目のカードはミッチーとアイが作ったもので三枚目のカードは僕とイオが仕方なく作ったものだ。時々は叩くくらいは演出しておかないといけない。冗談ばかりでは彼らは認めてくれない。アイはへらへらしながら僕の頬を叩く。想像以上に脳が激しく揺れた。
さあ俺の番が来たな。ミッチーが鼻息を漏らす。フンガフンガと。



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