第48期 #4
息子はプラスチックコップを両手で持って一生懸命ストローを吸っている。
あぶなっかしい手つきで今にもコップごとひっくり返してしまいそうだ。
私は温かい気持ちになって思わず息子の頭の匂いをかいだ。
ミルクの匂いがした。
一人でジュースが飲めるようになったのか。そうか。
息子の成長が見られるなら、元妻と月に1回顔を合わせることなんて大したことないと自分に言い聞かせた。
息子と来た初めてのディズニーランド。
ランチの予約までした自分がおかしかった。
息子はまだ小さいので、私は元妻の家まで迎えに行かなければならない。
『あなたは本当にお気楽よね。』と、いつも背中に突き刺さるような言葉を吐き出して私たちを送る。
私は短い時間を息子と一緒に、父親としてせいいっぱいの愛情で接しているつもりだ。
おいしいご飯、夢のひととき。
父親としてできることを一日に詰め込んでいるというのに。
先ほどのアトラクションは80分待ってようやく乗った。
その疲れのせいでぐずっていた息子だが、お子様ランチをペロリと平らげた。
さあ次は何に乗ろう?
人ごみの中を息子と手をつないで歩く。
歩くのもずいぶん速くなった。横顔は俺にそっくりだ。
「オジチャン、プーさんポップコーンが食べたい。」
オジチャン?
今、オジチャンって言ったか?
息子はじーっと見つめている。いや気のせいだ、とポップコーンワゴンに並び、プーさんの蜂蜜つぼの形をしたケースを買った。息子の首にかけてやると飛び跳ねて喜んだ。
短時間で乗れそうなアトラクションを探して歩いていると、通路脇に人々が席を取り始めているのが見えた。
パレードが始まるまではまだまだ時間があるようだったが、息子に目の前でパレードを見せてやりたい気持ちが先行し、待つことにした。
パレードがちょうどよく息子の前で停止し、クライマックスを迎えようとした。踊っていたキャストが最前列に座る子供たちに親しく話しかける。息子にも声がかけられた。
「ボクの願い事はなにかな?」
魔法をかけるダンスが終わると、ほーら魔法がかかったよと細い棒を鼻先で回した。
「まほう!まほう!ヨーイクシ、ヨーイクシ!」
息子はポップコーンケースを振って大喜びだった。周りの親たちも子供たちも楽しそうに笑っている。
「ヨーイクシ?ヨーイクシって何?魔法の言葉?」
「うん!ママがねいつもね、電話でね、ヨーイクシっていってるの。それがあればボクもママも幸せになれるんだって!」