第48期 #28

愉快なメタルフレーム

 夏休み前、体育教師は、筋肉の力でポータブルラジオを没収した。
 力を合わせるということは、全員が同じポーズをとることではない。おれたちはそのことを知らなかった。南方からの太陽をズバリ浴びる形で35人全員が右斜め45度に顔の向きをそろえたとき、肩幅まで足を開いて左が下になるように腕を組み、平成生まれ総勢35人はこう言った。
「夏休み明け、必ずおまえに、」
「勝つ。」
 おれたちは行動を開始した。
 まずは教室の机をグラウンドに運び出し、机15個による奇跡の4段ピラミッドを構築する。そしててっぺんの机の上にさらに椅子をひとつ乗せ、その上にクラス一勉強ができる岸本を座らせた。このとき、おれたちの頭の中にはわっしょい、わっしょい的な気持ちしかなかったが、今思えばあれは確実にスペクトラルアートだった。さあ、苦しいのはここからだ。岸本のメガネのフレームは非常に電波を受信しやすい金属でできているとおれたちは信じていた。おれたちの計算どおりならば、お昼のラジオを受信した岸本は、腹話術の人形のようにラジオパーソナリティのセリフを一語一句違わずにしゃべりはじめるはずなのだ。止まらねえ。もう止まらねえよ。岸本のしゃべりが、止まらねえ。おれたちは少しでも電波を受信しやすくなるようにと、でかいうちわで岸本をあおぎはじめた。その間、岸本にエネルゲンを供給することも忘れない。

「くそ、ちっとも電波を受信しない。だめなのか。クラス一勉強ができる岸本でもだめなのか。」
「弱音を吐くな。」
「大丈夫、岸本はまだまだこれから伸びる子だといわれている。やってくれるさ。おれは確信している。」
 ほんとうはおれたちが確信していたのは、力を合わせれば愉快にやれるさ、ということだった。



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