第48期 #25

川辺

 川辺の砂利ところころと可愛い石ころを見つめて、クマのできた目をこすっていた。さらさらとはいかないけれど、健気に流れている川の匂いが微かに漂っている。私は今すぐにでも同化しそうなぐらいただ薄暗い夕暮れの川辺に佇んで、密かにまるく座っている。
 虫がぶーんと飛んできた。ぶーんと私の周りをはしゃぎながら飛び去ると、興味は右上に見える石橋に向ったようだ。石橋には犬を連れてるだろうおじいさんが一人、のそのそと散歩をしている。おじいさんと犬なら、朝散歩すればいいのにと思うのは私だけだろうか。
 おじいさんは立ち止まって川の流れを見ている。決して綺麗とはいえないけれど、この川を見ていたくなる気持ちは分かる気がする。昔からおとなしくてちょっぴり寂しい気持ちを抱いてきた。川の気持ちなんてわかるわけないくせに、そんなふうに思わせるのがこの川だ。それはきっとただ流れているだけの川だから。座禅を組んでいるような川だから、沿っている、そう思った。
 中途半端に欠けた月が見え始めると、少し風が吹いてきた。私はますます縮こまって、より目立たなくなってしまった。少し寒い。肌寒いというのに、体は眠りたがっている。まずい。このまま寝たら逝ってしまうかもしれない。もう少し頑張って生きていたいので、私は目を見開いてみた。目の前にどんどん明るさを失っていく水面が映し出される。凹凸のない水面は緩くラップを張ったような感じだ。なんだか川に触れたくなった。
 ゆっくりと立ち上がって川の流れを私の手で遮断してみる。冷たい。手の甲も平も違和感がたっぷりとしたが、それはちょっとした快感にも似ていた。川の水は特別なのかもしれない。
 手の感覚が川の水に慣れてきて、調子に乗って手首まで浸からせたところでカップラーメンの容器が見えた。その瞬間一気に私の気持ちが萎えた。汚いよ。たんなる汚い水に変わってしまった。カップラーメンをここで食べるな。というよりゴミは持ち帰れ。
 くぼんだ目がサインを出している。やっぱりここで寝てしまおうか。少し背中が痛いだろうけど、少なくとも私はこの川が好きだからなんとかなる。でもうつ伏せになってしまったらどうしよう、その前に仰向けに寝るつもりなのか。
 さっきのおじいさんはやっぱり犬を連れて散歩していた。虫の音は何も聞こえなくなった。日暮れが刻々と進む中、川はそんなことなどどうでもよさそうに涼しげに流れている。



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