第48期 #2

都内のうんこ

 課長のAさんの会社は、都内の雑居ビルの3階にあります。ある日、Aさんは出勤途中に便意を催しました。雑居ビルの半地下にはトイレがあります。急いでいたAさんはそのトイレに行き、個室に入りました。すると、流していないうんこがあったのです。洋式便器の水溜りの真ん中に、うんこが一本、浮いているのです。Aさんは驚きました。なんてマナーの悪い奴がビルに居るんだろう。すぐにAさんは水を流そうと思いました。しかし、そこで気づきました。このうんこは、とても綺麗だ。よく見ればそのうんこはぶつ切れることもなく、茶褐色のバナナのようです。綺麗なうんこは健康な証拠だとAさんは思い出し、そして次の瞬間には、このうんこは出した人が綺麗なのを喜び、他の人にも見せてあげるために残したのだと思い至りました。Aさんは居ても立ってもいられなくなり、自分の便意も忘れて3階の職場に行き、部下であるOLのBさんを連れてきました。Bさんは男子トイレに入るのを嫌がりましたが、Aさんは強引に連れこみました。

 Bさんはその朝、前日に残してしまった入力処理をするために早く出社していたのです。Aさんにうんこを見せられたBさんは、うんこのことよりも、ひどい上司を持ったと嘆きました。そんなBさんの横で、Aさんが便器に残されたうんこの素晴らしさを説きます。そしてAさんは、他の人も連れてくると大急ぎでトイレから出て行きました。Bさんはすぐさま携帯電話を取り出し、同僚の女性に助けを求めようとしました。しかしその時になってはじめて、Bさんは目の前のうんこの綺麗さに気づきました。ああなんて綺麗。便秘の私にはこんなうんこ出せないわ。こんな綺麗なうんこを、水で押し流して途切れさせられるわけがないわ。そう考えているうちにAさんが、Cさんを連れてきました。Cさんは4階をオフィスにしている会社の社長です。

 年配で経験豊富なCさんは、うんこを一目見るなりその価値を見抜き、うむ、とうなずきました。そしてAさんがもっとたくさんの人に見せましょうと提案すると、こう答えました。こんな有り難いものは、いたずらに公にするものじゃない。きっとこのうんこは、私たち3人が神様からいただいた幸運です。今ここで、流してしまいましょう。その言葉には言い知れぬ重みがありました。AさんもBさんも納得しました。そして3人で一緒に洗浄レバーに指をかけ、綺麗なうんこを、流しました。


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