第48期 #18
まるで墓標だわ。
ふと、そう思った。
灰色のコンクリートの壁。
四角い見上げるほどの大きさのビル。
デパートの一角。人気のない裏側。
よく見ると他の棟に比べて、少し新しい感じがする。
一年前に火事が起きた。この棟はほぼ全焼だった。
死傷者二十三人。その内、警備員を含む従業員三名が死亡。
原因は、客の残した煙草の不始末。
火災報知器もスプリンクラーも正常に作動し、従業員の避難誘導にも問題はなかった。
それでも、従業員三名が死亡。
すべては不幸な偶然の重なりだった。
それも、すっかり再建されて、今は覚えている人もいない。
その日、あの人は警備員をしていた。
「じゃ、行ってくるから」
そう言って家を出て行った。
2階であがった火の手は、またたくまに棟全部に燃え広がった。
あの人は、8人の買物客を誘導し、本人は帰ることはなかった。
その買物客からは、いまでも時々手紙が届く。
「大丈夫、元気だよ」
私は、そう囁いて、そっと抱えていた花束を置いた。