第48期 #16
休日で特にすることはなく、天気がよかった。せっかくのいい天気を部屋でゴロゴロして終わらせるのも、もったいない。コンポにブランキージェットシティのCDを突っ込んで、ランダム再生。どこに行こうか考えていたら、「ガソリンの揺れ方」が流れてきたので、近所の公園に行くことに決めた。「ガソリンの揺れ方」にそういう力があるのかもしれない、偶然かもしれない。
その公園は住宅街の中に唐突に現れる、あのよくあるやつで、ブランコと砂場、水飲み場、どう遊ぶのかよく分からない動物のオブジェ(カバ、パンダ、ウサギ)があった。僕が子供のときから変わらずに、無機質な住宅街の中の誰もとどまることのないオアシスとして、公園はあった。ここにあった変化といえば、子供たちが遊んだからではなく、たんに雨風にさらされたせいで剥げた動物たちのペンキが何度か塗りなおされたことくらいだった(そのあいだに僕は、義務教育を終え、高校をでて大学へ行き、同年代の平均くらいの恋愛を経て、それなりの変化をした。と思う)。
公園について、驚いた。こんなに小さかったっけ。入り口の車止めポールの横に立ったまま、少しの間、公園全体を眺めていた。それから、向かい合って腹ばいになっている動物たちの横を通り過ぎ、ブランコに座って、ポケットからタバコを取り出した。そこまではすごくスムーズにいっていたのに、僕はここで致命的な失敗を犯した。ライターがなかった。
なんてことだ ライターが ない。
僕は片時もタバコを手放せないヘビースモーカーという訳ではない。ただ、時としてこういう些細な、しかし流れの中で確実にあるべきステップ、動物園に行ったら象を楽しみにするようなステップを踏み外すということは、あるべきではないのだ。それは流れの中に一瞬の間隙を生み、そこに無意味が入り込んでしまうのを許す。自分の意思の外の無意味ほど、最悪なものはない。
僕はとにかく、無意味を追い払わなければいけなくなってしまった。あぁ、こんなことなら部屋から出ずに寝てれば良かったんだ。赤毛のケリーと踊ってれば良かったんだ。砂場に入り、中で半分埋もれていた小さなスコップの砂を払った。砂場のだいたい真中をスコップで掘り始めた。洋ナシのゼリーに撫でられるような感触が背中に迫ってきていた。僕は穴を掘り続けた。あぁ、ちくしょう、赤毛のケリーと踊ってれば良かったんだ。僕は穴を掘り続けた。