第48期 #15
「あたためますか?」
ボクの脚は関節に逆らうことなく折り曲げられる。
腕はその脚を抱えるように、そう小学校のグラウンドで見かける“体育座り”の格好になる。
“体育座り”のボクは、何かを温めるために作られた“箱”に入れられる。
スイッチが押されたのか、ターンテーブルが回り始める。
今までボクを表す単位は、センチメートルとキログラムだったが、この“箱”は、もっともっと小さなボクの単位を震わせだす。
ゆっくり震える。ブルブルではなく、フルフルと。
フルフル・・・フルフル・・・。
意識が遠くなる・・・。
フルフル・・・フルフル・・・。
眠い・・・。
フルフル・・・フルフル・・・。
声が聞こえる。
どこかで聞いたことのある声。
一人は女性で声が体全体に響いてくる。
もう一人は男性、少し遠くから聞こえてくる。
フルフル・・・フルフル・・・。
声と一緒に音楽が聴こえる。
どこか遠い昔に聴いたことのある音色。
フルフル・・・フルフル・・・。
声は、さらに響きつづける。
楽しそうに響きつづける。なにが楽しいのだろうか。
フルフル・・・フルフル・・・。
フルフル・・・フルフル・・・。
意識がさらに遠くなる・・・。
フルフル・・・フルフル・・・。
眠気も強くなる・・・。
フルフル・・・フルフル・・・・・・ブルブルブル・・・。
突然、回転のスピードが上がる。
聴こえてくる声が増える。
男女の区別もつかない。
直接響いていた声はうめき声に変わる。
ブルブルブルブル・・・。
苦しい。
“箱”の中が窮屈になる。
苦しい。
ブルブルブルブル・・・。
“箱”から“管”へ体が追いやられる。
今まで感じたことの無い力で体が外へ追いやられる。
苦しい。
ブルブルブルブル・・・。
外。なぜ外だと思うのだろう。
ブルブルブルブル・・・。
感覚が蘇る。覚えている。前にもこの力を感じたことがある。
ブルブルブルブル・・・。
そうだ、産まれるんだ。これからボクは産まれるんだ。
力がボクを押し出そうとする。
苦しい・・苦しい・・・光が近づく・・・光が大きくなる・・・同時に意識が戻ってくる。
「ドクン!」
一秒前に地面に叩き付けられた衝撃と同時に赤い水溜りがボクの目に映る。
体が震える。
ブルブルブルブル・・・。
赤い水溜りの中で、センチメートルとキログラムのボクに戻る。
“そうか、産まれるために逝くのか・・・”
そんなことを思いながら最後になるであろう言葉をしぼり出す。
「あたた・・めてく・・・ださい」