第47期 #7
鬱蒼と茂る森をのろのろと這いながら、国道は何処までも続いている。
運転席のセロが煙草の吸殻を無造作にウインドウから放り投げた。この国道に入ってからもう何本目だろう。そしてその間、私達はただの一台の自動車とも擦れ違っていない。この道はどこまで続いているのか。この道を走り続けることで、我々はどこかに辿りつく事が出来るのだろうか――そんな疑念が脳裏を掠めた。
縛られて鬱血した手首を想像する。血流は途絶え、代謝は停止し、生命活動は停滞していく。この世界の中にもそういう何処にも行き着くことのない「見捨てられた場所」が存在するはずだ。ここがそうなのかもしれない。
途中、乱暴な運転でセロが車を止めた。何事かとセロに問えば、近くに電話ボックスがあるから伝言を受け取って来いと言う。午後五時丁度に電話が鳴る、お前は受話器を取れ、セロはそう言った。釈然としないものがあったが私は車を降り、電話ボックスへと向かう。
電話ボックスの外装はぼろぼろに壊されていた。硝子が割れ、フレームが歪んでいた。肝心の電話はちゃんと機能するのだろうか。そう思った瞬間にけたたましく電話が鳴った。受話器を取る。
(もしもし)メモのご用意はありますか。(はい)それでは以下のメッセージを書き写してください。三番地には支給の途絶えた自販機があって、中には流産した胎児がぐちゃぐちゃに詰まっています。アパルトメントの老人に勧められても、そこでジュースを買ってはいけません。
恐らくは暗号であろう、その意図の読めないメッセージをメモし終わると、受話器ががたりと呟いた。ずるずると伸びた電話線の向こう、ねっとりとした暗闇の中に立つ誰かが、唐突に受話器を下ろしたのだ。
車に戻った私がセロにメッセージを見せると、セロは皮肉っぽい笑みを浮かべた。なあお前、これから何処に行くか知っているか? そうセロは尋ねてくる。私が答える前に彼は回答を口にした。月光治療だ、お前は月光治療を受けに行くんだ。永遠に朝の来ない僧院で、月の光と点滴だけで暮らすのさ。
私は右腕の包帯を取り、傷口に植えた眼球草を眺めた。根の張り方が弱いから、冬を待たず枯れるだろう。セロがギアを上げた。対向車線上にズダズダに引き裂かれたオルガンがあって、セロは少しもブレーキを踏むことなく、トップギアでそれと擦れ違う。鬱蒼と両脇から迫る森に未だ呑まれる事なく、細い国道は続いている。