第47期 #5

街灯はジィィと鳴く

「ごめん、別れようよ」

西日が差し込んで赤茶色になってる放課後の廊下で、彼女は急に言い出したんだ。
「え?」
そのまんまの意味しかない。そのまんまの意味しか取れない必要最小限の言葉なのに、僕は聞き返してた。
だって、大好きな彼女と、大好きな放課後のゆっくりとした時間の中で話していたんだ。
窓枠一つ分のスペースから、二人で手すりに持たれて外を見る。少しだけ声は小さくして話す。
6時限目の英語で、僕の隣の席の唐沢が居眠りしてたら先生にひっぱたかれて・・・・くだらないことで、二人してくすくす笑いあう。でも笑い終わったら、急に彼女は言ったんだ。

「うん、別れようよ。そのほうがいいと思うんだ。」

聞き返した僕に、説得と念押しをまぜこぜにしたような、こちらの考えが変わることはありません、って優しく決断をせまる弁護士のような言い方で繰り返したんだ。

そこに選択の余地はなく。

いつもなら、校門を出てまっすぐ。彼女の家まで僕は彼女を送る。だけど今日は「今日はここでいいよ。一人で帰れるから」だって。そんなの僕だって分かってる。当たり前だろ?僕ら17なんだよ?帰れるなんて知ってるんだよ。
僕が知らないのは、なんで別れたほうがいいなんて君が考えたか。それだけ。

「じゃあ」ってお互い右手を上げて、僕は校門を出て右。家までまっすぐ自転車こいで。寄り道はしない。MDから流れる曲を、サビだけ一緒に歌う。

自転車置き場に自転車置いて、イヤホンを外して、少し汗ばんでるな。気づかないうちにいつもより急ぎ気味だった。そのときちょうど、街灯がつく6時。急に明るくなった自転車置き場で、僕は初めて気づいた。

街灯はジィィと鳴く。



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