第47期 #21
研究職を志して五年。友達も作らずにひたすら地道な勉強を重ねて、やっとの思いで東京の大学に受かって上京した僕が今住んでいる古いアパートの二階左端の部屋の隣には幽霊が住んでいた。
そのすぐ後、ちゃんと足の付いている人間が引っ越してきて、泣く泣く部屋を追い出された幽霊は何故か僕の部屋に住み着きました。
こうして僕と幽霊の同居生活が始まりました。
「うらめしいよ〜」
「はいだめ!もう一回」
「う、うらめしいよ〜」
「何度言ったら分かるの、この、無能、足無し!」
「ちょ、足無しって、おま」
「口答えしない!もっと恨み妬みその他万象を抉り込む感じで」
「う〜ら〜」
「全っ然ダム!スタッピドバスタード!ファッキン!」
「そ〜んな〜」
隣人が引越してきて以来、僕と幽霊は何故だか特訓をしていた。何の特訓かと言うと、これが馬鹿な話なのだが、人を脅かす特訓なんだ。驚かす、ではなく脅かす。つまり隣人を脅かして、恐怖で支配して、ゆくゆくは出て行ってもらおうという作戦だ。
「やっぱり無理だお」
「お前が言うな、馬鹿、言いだしっぺが」
「正直すまんかった、今は反省している」
赤子のするハイハイのような姿勢で幽霊は何か訳の分からないことを口にした。
「じゃあ、出てけ」
「ちょっ、無理、把握した」
「どっちだよ」
こんな感じで特訓は上手く行っていない。何といっても本人にやる気が感じられない。
「いや、俺的には住めればどこでもいいし」
「女の子が俺とか言うな、ていうか僕は迷惑だ」
「いいじゃん死んでるし?新ジャンル『シンデレ』べ、別に供養なんかいらないんだからね」
本気でお祓いとか頼んだ方がいいのかもしれない。玄関に塩を撒いてみたが、あれは中に入れないだけで元々居るやつには効果がないんだと。本人が言っていた。
そんな生活にも慣れてきた頃。僕は地元のそういう方面に詳しかった友人に、何とかならないものか、と電話で相談をしてみた。
「いや、嘘でしょ」
「へ?」
「だって君、友達居ないじゃん」
「ああ、うん」
畳敷きの六畳一間ボロアパートの一室がやけに広く感じた。
「大丈夫、君にはびっぱーがついているお!」
そう言って彼女は隣の部屋へ消えた。何でも、こっそりと隣のパソコンを使わせて貰っているらしい。僕は急いで玄関に塩を撒いたが、アレが壁を通り抜けて移動する以上、たぶん無意味だ。あぁ、くそ、恨めしい。