第47期 #18

月の下で

 年老いた宇宙飛行士が、銀河の果てに惑星を見つけた。
 ロケットを夜の海岸に着陸させ、宇宙服のヘルメットを外し、空を見あげる。大きな赤い月が、浮かんでいた。
「この星の人かい?」
 老飛行士は問いかけた。海岸の岩の上に、一人の少女が立っていた。額に、銀色の角を生やしている。
「そうよ」
「きみ一人なのか?」
 少女は頭上を指さした。
「あの月に住む人たちと戦争があってね、仲間はみんな殺された。最後の一人なのよ」
「宇宙にはひどいやつらがいる」
 老飛行士は、こぶしをふるわせ怒った。
「しかたのないことだわ」
「一人でさみしくはないのかい?」
「あなたも一人ね」
「おれは長い旅をして、その調査結果を国に報告するのが仕事なんだ。決まりでね、恋人や家族を持ってはいけないんだよ」
「わたしと同じね」
「きみはこれから家族を作り、子孫をのこせるだろう」
 老飛行士は、望むならば少女を別の星へ連れて行くことを提案した。しかし少女は首をふった。
「ここから離れたくないし、それにこれがね」少女は額の角をなでた。「子供を産めなくするためのものなの」

 老宇宙飛行士は、赤い月の人びとが少女に植えつけた角を除去するために、この星に滞在することを決めた。額から伸びた角の根は、体の深くにまで達し、ロケットの医療機器ではむずかしい手術だった。老飛行士は検査を繰り返した。
「むりなら、いいのよ」
「死ぬ前にここで最後の仕事をしておきたいんだ」
「あなたは死ぬの? あなたは病気なの?」
 老飛行士は笑った。
「寿命というのは、たしかに不治の病かもしれない。治らない病気もあるだろう。けれどね、その角はおれが取ってみせる」
 赤い月が、なんども二人の頭上をとおりすぎた。老飛行士はあきらめなかった。やはり赤い月の晩に、角は少女の額から取りさられた。老飛行士は、満足でいっぱいだった。
「きれいだ。傷あとものこっていない」
「ありがとう」
 それからいくらかの月日を二人で過ごしたあと、老飛行士は老衰で死んだ。
 少女のもとには時おり、ほかの星の人間がおとずれることもあった。きまぐれに求愛されたりもしたが、少女はことわった。おもい浮かぶのは、老飛行士のことだったから。
「おれが死んでも、きみが自由になれるように」
 老飛行士は、少女にロケットの操縦を教えていた。だから少女はどこへでも行くことができたが、まだ赤い月の下にいる。
 しかし、あすにでもすぐ旅立つかもしれない。



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