第47期 #13

擬装☆少女 千字一時物語2

 たまには外でこうして何もしない時間を過ごしてみるのも良いものである。
 駅前広場でちょっと可愛い子を発見。
 花柄模様以外の飾りのない淡い青のゆったりしたカットソーワンピースの上に水色の半袖パーカーを羽織って、人通りの中で一人だけ立ち止まってきょろきょろしている。ちらっと腕時計を見た。あのスポーツウォッチはちょっと取り合わせが良くないかも。それから急に歩き出した。あれ、歩き方が何か変。
 あの子、男の子だ。でも、結構可愛い。その証明というわけではないが、これだけ大勢歩いていても、誰もあの子のことを嫌悪の目で見ていない。もしかすると、誰も気づいていないのかもしれない。顔立ちも体つきも丸っこいし、肩にかからない程度の髪も付け毛ではないようである。あの子からは違和感は認められない。
 誰かを待っているのかと思ったが、そうではなかった。小一時間くらい広場の中を動いたり立ち止まったりしていたが、もう一度時計を見て、それから突然に駅前商店街の方に移動していった。洋品店の店先を覘いては、中には入らずにまた移動する。店に入るのには抵抗があるのだろうか。そう思うとさらに可愛く思えた。そのうち、意を決したのか、一軒の店に入っていった。
 目当てのものを見つけてから入ったのだろう、すぐに入口近くのレジに現れた。パーカーのポケットから財布を取り出して支払いをしている。それから、小さなかごバッグを下げて出てきた。時間がかかっていると思ったら、すぐに使うから袋は必要ないことを話していたらしい。確かに、ポケットを膨らませているよりはずっと良い。
 それからファーストフード店に入った。ちょうど空いていたテラス席に、ジュースだけを持ってきて座った。買ったばかりでよほど大事にしたいのだろう、膝の上にバッグを乗せている。気疲れしたのか、時折大きく肩で息をして、時間をかけてジュースを啜っている。それでは足りないのか、コップのふたを外して氷をいくつか口の中に入れたのにはちょっと笑えた。
 そろそろ声をかけてみようか。
「ねえ、君」
 もうすぐ行こうかとしていたところに、テーブルの向かい側に立って声をかける。わずかに怯えた様子を見せたが、それはすぐに隠されて、いぶかしむような表情を向けられた。
「いろいろ教えてあげようと思って」
 先輩として後進の指導はきちんとしなければ、ね。私は微笑みかけて、まずは可愛いところを褒めてあげた。



Copyright © 2006 黒田皐月 / 編集: 短編