第47期 #12

ワールドカップ特別お祭り騒ぎ

 2ヶ月ぶりに集合がかかった。土砂降りの雨のなか、数百匹のたぬきたちが山を降り、富士のすそ野へと集結したのである。その際、各自お気に入りの60年代ロックを歌っている。いったいこの関東のどこにこれほど熱いたぬきたちが潜んでいたというのか。関東の山という山の木々が風にゆれ、またたくまに集結が完了した。ここで一旦お昼休憩をはさみ、貫禄十分、たぬきの長は話しはじめた。
「いま、スニーカーを履いていないたぬき、帰ってよし!」
長は、途中まで目をつむっていたが、「帰ってよし」のところで目を見開いた。この演出力にたぬきたちはたじろいた。
「長! なぜですか。スニーカーを入手することができないたぬきも少なくありません。人間の持ち物を手に入れること自体、たぬきには難しいことです。」
「難易度Aです!」
長は、杖をくるりとまわし、頭をしばきやすいように持ち替えた。
「今、発言したたぬき、一歩前へ出なさい。」
「絶対痛いから無理です。」
長は杖をもう一度くるりとまわした。
「じゃあいいや。」
長は杖をおさめた。
「長! ブーツは可ですか!」
「ブーツはOKじゃあい!」
長の右腕として活躍するたぬきが叫んだ。一瞬遅れて長も「ブーツはOKじゃあい!」と叫んだ。また長は続けた。
「サマソニ’05Tシャツを着ていないたぬき、おまえらも帰ってよし!」
「長! 一昨年のサマソニTシャツは可ですか!」
「一昨年でギリ」
長はしばし間をあけた。帰っていくたぬきは一匹もいなかった。
「…はい。いま、ここに残ることができているたぬき、厳しい条件を満たしここに立っているたぬき、自身を持ちなさい。きみたちは本物だ。本物のギタリストだ。そして、ひとつだけ言っておきたいことがある。今回、あつまってもらった目的は、とくになし!」

うおおおおおおおおおおおお

たぬきたちの雄たけびが海とか山とかを奮わせた。
「やったぜーい! 特に意味なしだー!
「おれたち、意味なしだぜ!」



Copyright © 2006 ハンニャ / 編集: 短編