第47期 #11

証言者E

 証言者A
全然クラスでは目立たない存在でしたね。髪もいつもボサボサであんまり近寄りたくないタイプっていうのかな。体育祭のフォークダンスの時に爪垢が溜まっているのを見て凄く嫌だった記憶があります。友達もいなかったんじゃないかと思いますね。
 証言者B
 学校をよくズル休みする子でしたね。月曜日の朝になると必ずお腹が痛くなるとか適当な理由をつけていつも休んでいました。(当時の私の家が)彼女の家の近所だったもので毎週いつも私が宿題なんかを届けていました。いじめって訳ではないけれどそういう感じの嫌がらせは受けてたみたいですね、彼女すごく陰気な感じだったから。
 証言者C
 小学校の時の理科の実験の時間だったかな。カエルの解剖をしていたんです。まずはカエルに麻酔をかけるんですけど彼女は先生の言った通りにやらずに麻酔をかける振りだけしてメスを入れたんです。彼女が一応班長みたいなことをしてたから僕らは何も言いませんでしたけどね。あの時の彼女は今思い出しても何か恐ろしかったですね。
 証言者D
 あんなに暗かったのに高校に入ってヤンキーと付き合いだしてから彼女変わったね。髪の毛の色も真っ金金に染めてたし。きっと自分の過去帳消しにしたかったんじゃないのかな。色んな男連れて歩いているのを街でよく見かけたし。今思うと彼女寂しかったんじゃないかな。両親早くから離婚してたみたいだし。
 僕は長時間に渡る証言者達の映像を見ながら加工修整を施していく。モザイクを入れたり音声を変えたりしていくと証言者達は皆一様にすっかり匿名性を帯びた立派な世間様に成変わる。
〈証言者A〉フォークダンスで手を繋がれたくなかったのはお前だよ。
〈証言者B〉彼女はお前の後釜を担ったんだよ。お前を親友として庇ったから。
〈証言者C〉アヒルの嘴に爆竹を巻いて点火したお前。
〈証言者D〉彼女を興味本位で男たちに回させたのはお前だよ。
 僕はモニターを見つめながら毒付く。僕も彼女と同じで故郷を捨てた一人だ。季節外れのどしゃ降りの雨の日に彼女は僕を傘に入れてくれた。何も話さなかったけれど僕はあの時の彼女の微笑みを今でも忘れていない。僕がこの作業を終えて何の意味もない阿呆な奥様相手の一時の娯楽映像がテレビで放映されているのを見てきっと田舎から一歩も外に出たことのない証言者達はこれボカシ入ってるけど俺、これ私と話に花を咲かせ安酒でもかっ喰らうことだろう。



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