第46期 #21

髑髏島兄弟のスカルコンビネーション

 おしゃれダーツバーの店内。ダーツプレイヤー・かずとしは動揺を隠そうと、いつものロマンティックなかずとしのままでいようと意識してグラスを口につけたが、手に持っていたマイダーツを床に落としたことに気づかなかった。かずとしのわきの下から流れ出る汗は、小さい鍋で大量のパスタをゆでようとしてしまったときの鍋のふきこぼれか、と思ってしまうくらい大量だった。
 中部地方出身のかずとしが、バイトではリーダーを務めるかずとしがダーツで負けた。それも相手は目隠しをした若い女。女は、びっくりしているときの目のイラストが描かれた目隠しを外しながら近づいてきて、かずとしは今思い出したかのように3万円支払った。東京とはこんなにも危険な街だったのか。かずとしの脳裏におばあちゃんの顔が浮かぶ。そのとき少し離れたテーブルから拍手が聞こえてきた。
「すごい賭けダーツだったよ。長野でTBSラジオの受信に成功するくらいすごいよ。」
「ふふ。インテリだね、兄さんは。」
拍手と声の主は、かずとしと女の勝負を見ていた坊主頭の兄弟だった。髑髏島兄弟である。そういえばかずとしは、さっきからこの兄弟のするどい視線が気になってプレーに対する集中力がそがれていたことを思い出した。あの兄弟の、ただならぬスケールの不敵な笑いを見て動揺してしまったのだ。あの兄弟、数々の修羅場をくぐり抜けてきた血塗られた勝負師に違いない。髑髏島兄弟が近づいてきた。そして、髑髏島(兄)が女の前で立ち止まる。今にも鼻と鼻が触れそうな距離。髑髏島(兄)の足は不自然なまでに大きく開かれたスタンスをとっている。なんだこのあやしげな緊迫感は。近い。エロティックなまでに距離が近すぎる。はじまるぜ。俺の第六感がやさしくささやいている。こいつらただものじゃない。本物だ。本物の勝負がはじまる!

「こんにちは」
 髑髏島(兄)が女に話しかける。するとどうだろう。突如後方から走りこんできた弟が兄の股の下から、不自然なまでに大きく開かれた兄の股の下から突如顔をのぞかせた。弟は親指を立てながら叫ぶ。
「O型でしょ?」

 兄が女の子に声をかけると、弟が兄の股の下からヘッドスライディング気味にあらわれ血液型の話で盛り上げる。食らえっ! これが必殺の、髑髏島兄弟のスカルコンビネーションだ!
 髑髏島兄弟はさっきからナンパのことばかり考えていたのだ。女は這いつくばっている弟の額にダーツを刺した。



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