第46期 #13
透明なユメを見ている。ある日突然、世界中が淡く透明に薄れていくのだ。見えているものが見ている端から白ばんで消えていく。その光景が余りにも悲し過ぎて、僕は瞼を閉じることにした。
目覚めれば世界は今もそこに在って、ユメなんて儚いものなんだ。
手始めに三十万円を受け取った。交通費として二万円を渡された。この金で人を一人、片付けて来いと言うのだ。持たされた金束を後ろポッケに詰め込んで外へ出た。
歩いていると早速に三人組の男に拉致られる。理由はなんとなくだが、一応聞いてみることにした。
「暇じゃないんだよ。しね」
殴られた。どうやら、ポッケの金束が彼らを惹きつけた原因らしい。
面倒だから少し分けてあげてもいいかな、と思って交渉したら全部欲しいと言う。
仕方ないのでこっそり貰っておいた拳銃で、撃ち抜いた。
ここで目的の場所までは電車で三十七分、バスで十二分もかかるから、これらを隠しているヒマが無い。だから―――捨て置いて逃げることにした。
駅から乗り物に揺られて、―――その果てに、ついに古びたアパートへと辿り着いた。
長かった。途方もなく長かった。そんな万感の気持ちを込めて一〇一号室のドアノブを引いた。この先に、全ての元凶にして原点である、一人の男が待って
「うー」
いたけど、首を吊っていた。
あわや大惨事か。などと慌てている場合では無い。とにかく吊り縄を狙い、撃つ。だが切れない。本当に役に立たないエアガンだな。仕方なく普通にナイフで切った。
フローリングの床に落ちた男はまだ生きていて、呼吸が落ち着いた途端にくず折れて泣きだした。さて仕事だ。
「初めまして、私はこういう者です」
差し出した名刺を男の手に強引に握らせる。
「す……、スーサイドキラー?」
「はい、日本語で自殺殺し。意訳して命の恩人です」
「はぁ。は?」
「我々、特命機関シンメトリでは彼方のような自殺志願者を特定し、救済することを任務としています」姿勢を正す。「つきましては――」
透明なユメが唐突に終わる。眼を開けるとそこには一人の女性が立っていた。なんて神々しいのだろう。眩しさと情けなさで独りでに涙が出た。
「初めまして」
話を聞くと、彼女は何か良く分からない仕事で何故か自殺を潰して回っているという。
「つきましては、この先のサポート。つまりはあなたを幸せにするお手伝いをさせていただきたいのですが?」
いかがでしょう、と彼女は言った。
「……よろこんで」
僕は言った。