第46期 #10

Recipe#3

私はまた死に損ねた。 バスタブに浸かった身体の温度とそれを包むお湯は、ぬるい。ルールという綱から落ちたのに、また引き上げられていく。どうして、私は上手く死ねないのだろう。 彼女は私に、死は最大の完成よ、と言って笑った。それ以上手に入れることも、これ以上失うこともない、完全な結末だと思わない?彼女が指で弄ぶライターを私は見たことがあるのだけれど、果たしていつ見たのかを思い出そうとしていた。あたしが死ねば、彼はあたしを忘れることはないし、愛さなくなることもないの。あたしはそこに居なくなるから。やっぱり笑ったまま彼女は言った。私は怪訝な顔をしたけれど、彼女は確実に私を追いつめた。 バスタブに浮かぶ黒い髪は、私の象徴だった。それを見ながら溜め息をつく、私はどうして上手く死ねないのだろう。私は水色のバスタブに沈みながら、そればかりを考えた。私は彼の中で、完成しなければならないのに。 だけど、先に死んだのは彼だった。



Copyright © 2006 xxx / 編集: 短編