第45期 #24

ツールドフランス

 美術をやっている友人のインスタレーションの取材に行く。崖の上に立った一軒家で好きなことをやって好き放題で金になるのだからなんとも羨ましい。
 私自身も若い自分は随分とそういうことをやったものだ。随分とそういうことをやったが何一つものにならなかった。小説。音楽。舞台。絵画。全てが駄目であった。全く金にならなかった。ならなかったばかりかそれで貧乏になった。今も貧乏している。つきあった女全員にヒモと呼ばれ、女房にも逃げられた。実に惨憺たる有様である。今も三文美術ライターの傍ら趣味で小説なぞも書いているが全く駄目である。自分では随分うまく書けているなあ、とても斬新で、私は才能があるなあ、と思うのであるが、が、駄目。全く金にならぬのである。常に貧乏している。
 道は一本道で、どこまでもまっすぐ続いている。とても良い天気、頗る快晴でとにかく順調である。アクセルは踏みっぱなしで、実にすいすいである。それもそのはず今は車なぞ流行らない、皆が自家用ジェットの時代であるからな。上空を皆が音も無く飛びまわっておるよ。新々々三種の神器という奴か。私は買えない。皆は買う。インターネットでショッピングでありますよ。
 インターネットといえば、全世界のコンピュータが止まったらどうであろうか。実際問題、人間の情報処理能力ではネット上に展開される情報を処理することは最早適わぬのではないのだろうか。無限に存在する選択肢の前に右往左往するだけでは無いだろうか。という感じに実にクラシカルなあんばいのSF小説を考えて、自分はこの手のものが非常に好きなので、非常に良い気分に浸り、さあクライマックス、人類への警鐘、というところで車が止まった。
 突然ボンネットから煙を吹いて、車が止まった。
 車を降りて歩き出す。さようなら、メルセデス・ボルボの青い車。
 道は一本道。どこまでも真っ直ぐ。どこまでも快晴。私は叫ぶ。誰かいないのかい。
 誰か居ないのかい。誰か、いないのかい。
 丘を登り、振り返る。ジェット機の群れがびゅんびゅんと忙しく、その銀色の軌跡でまるで青空を切り裂くかのように飛び回っている。それは非常な高速で、非常に美しく、昔見たビデオを思い出した。電子顕微鏡でどこまでもどこまで物を拡大していく、ただそれだけのビデオである。
 詳しくは説明しないが、まあ機会があれば見てみると良い。
 あれはなかなかに、興味深いものであるよ。



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