第44期 #7
隣で心地よく眠っていた彼女が、僕の手を持つとまじまじと見つめた。
「人差し指の指先にほくろがあるんだね。」
「ああ、これ?テントウムシのせい。」
「え?噛まれたの?怪我したのが残っちゃったの?」
そうじゃなくて、と僕はこの前あったことを話し始めた。
この前の日曜日、夕方にさ、窓を開けっぱなしにしてタバコを吸ってたんだ。
一匹のテントウムシが入ってきて。ナナホシの。
畳に着地するとソロソロと這い始めた。
片方の羽はしまい忘れたままね。
それが本当にかわいくて、別に殺すもんでもないしってそのままにしておいた。
次の日会社から戻ってきて部屋の電気をつけると、まだなんとなく気配を感じる。
そのナナホシテントウまだいたんだ。踏み潰さないようにちょっと気をつけて、冷蔵庫からビール缶出して飲みながら観察。
本当に点が七つあるのか数えたくて近づいた。
エナメルみたいにあんまり背中がツルツルしてるから触りたくなって、人差し指をそっと置いたんだ。そしたら点がぎゅうっと集まりはじめて指先に吸い込まれて、ただの真っ赤な虫になっちゃった。
点はどこに行っちゃったんだ?
指先をゆっくりとこちらに向けたよ、したらポツって黒い点があって。
僕はただ指先にできたほくろを見てた。
この点は持ち主に返したほうがいいかも、だって点がなくなったらテントウムシはテントウムシじゃなくなっちゃうじゃんか。
ただの赤い虫になっちゃうじゃんか。
でも、ちゃんと7つに散るのかな・・・・
と思ったときにはもうヤツはいなくなっていた。
とりあえず窓の網戸は開けっ放しにしておいた。
「じゃあ、このほくろはテントウムシの点なの?」
信じられないといった表情で僕を見つめる彼女。
僕の手をつかむと自分の左の乳房の上に指先を置いた。
指先をそっと離すと、そこにはぽつりとほくろができていた。
七つの点がぎゅっとつまった濃いほくろ。
僕は彼女の乳房にそっとキスをし、そして彼女を抱いた。
今のところ、そのほくろは彼女の唇に小さくのっかっている。