第44期 #5
「私、ずっと強くて何でもうまく出来る人になりたかったの。」
突然ともだちが言ったから我に返りました。
「だから頑張って仕事もやって、辛くても周りに悟られるのが格好悪いから澄ました顔して我慢してたの。ずっと。泣きたくてもぐっとして。家に帰るともうこらえすぎて泣けないの。そしてまた朝が来て我慢して。でも一番嫌なのが自分なの。うまく謝れないし、いらいらするとあなたにもきつい言葉で返してしまう自分が。」
煙草の煙を吐き出すように一直線に言葉を押し出してともだちは、黙った。
・・・なにを言ったらいいのだろう。と顔を見てもともだちは向こうの信号待ちの車を見ています。さっきの言葉は私の空耳で、ともだちはずっと前から黙っていた様な気がしてきました。
「なんか嫌だ。何が嫌って自分が嫌。」
さっきとは打って変わって激しく言い放ってまた黙ってしまいました。また顔をみると静かに涙を流していました。
きっと私は励ましたり慰めたりするべきなのでしょう。でもわたしは何もしませんでした。自分の厭らしい部分や認めたくない部分を代わりに吐き出してこの車の中で蒸発させてくれた気がして心地よい安堵感がありました。ともだちの顔を見ると涙は続いていたけれど穏やかな顔をしていました。明日になれば私もともだちもまた我慢して澄まして傷ついていくのでしょう。すぐに素直なにんげんになれるはずもないから。みんな弱いところを隠している事がわかったからそれだけで、いい。