第44期 #27

バスケット・クソ度胸ボール

試合開始直前、両チームが整列すると、体育館の天井が、なんらかのマシーン的な力によってぐんぐんせまってきた。せまってきた天井はコートの部分だけで、観客席は安全なのだが、すっかり気をぬいて観戦していた僕は、びっくりして血眼で、
「逃げろ! はやく逃げろ〜!」
と、叫んでいた。実はこのとき、僕はもうバスケット・クソ度胸ボールの魅力にとりつかれていたのだが、そんなことに気づかないほど、熱中してしまっていた。
試合なんて放りだしてすぐに逃げれば、まだ今なら選手たちは天井にはさまれることなく脱出することができる。僕は叫び続けたが、まわりの観客が、全く落ち着きはらってコートをじっとみつめていていることに気づいた。さらに、よくよく注意して観察すると、選手たちのようすが、立ち振る舞いが尋常ではないほど毅然としていることを発見した。あの選手達の瞳は、あの瞳は、逃げる気なんてさらさらないときの瞳だ。そんな自分に酔っているときの瞳だ。

「はさまれるのが怖くてバスケがやれるかよ!」
「一歩間違えればはさまれるけど、バスケしようぜ!」
「はさまれるのが速いか、ゴールへ攻めあがるのが速いか、勝負だぜ!」
僕は、そんな選手達のクソ度胸に心をうたれ、涙を流し、そして試合は始まった。
「危ない! バスケなんかやってる場合じゃない、このままじゃ天井に挟まれるぞピィ―――――!! 試合開始〜」
避難をうながすと同時に試合進行に積極的な審判の、見事なジャッジに拍手が贈られた。

体があたたまっていくのと同時に、中腰になっていく選手たちは、まさに野生の狼だ。
「ばかやろう! おまえら命が惜しくないのかピィ―――! トラベリング」
みんなの命を気遣いながらも、ジャッジにぬかりはない審判に、拍手がおくられた。
ぼくはもう感無量だったが、さらに試合終盤、夢の荒業をみることができた。
「俺が身体で天井を止めておくから、今のうちにはやく!」
選手の一人の、感動的な自己犠牲である。ここで「ディーフェンス! ディーフェンス!」の大合唱である。僕も叫んでいた。少し八百長くさかった。



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