第43期 #7

失敗による私個人の手記

 私は、彼女に対して失敗したのだと考えました。

 目を覚ましてすぐに私がやったことと言えば、彼女のいるベッドに飛び移ることでした。いったい何が、これよりも普遍的な行動でありえますか。私は目を覚ました時にいた場所よりも、確実に暖かい場所を知っていたのです。

 私は陽が昇りきるまで、彼女によって形作られた狭くうねった山道を歩き回り続けました。そうしているうちに、彼女はもじもじすることをやめて、ついに起きあがりました。しかし私が、ほんとうに彼女にふるまってほしかったこと。それは彼女が少女であり続けること以外にありませんでした。

 彼女が誰かの恋人でなければならない朝早くから深夜まで、すなわち彼女のいない真っ白な暗闇が私を包む間、私は決して何もしませんでした。何もしないことが、果たして彼女に何かを伝えうる結果を導くかどうかについては、私にはわかりません。ただ言えるのは、私は彼女を待ち続けるだけの生活を長い間保ってきた、ということでした。そしてその生活が何も私に与えてこなかったということ、それだけを、私はよく理解していました。

 だから、彼女が黒いストッキングを履ききってしまうのを見た時、彼女がこの部屋からいなくなるのを止めたいという気持ちが不意に溢れ出てしまったのだと思います。私はベッドから飛び降りると、彼女の膝にしがみついて離すまいと、声をあげながら思いきり彼女の脚に爪を立てました。(それは、人間が世界で最も美しい創造物に対してどのように反応するのか、確認するための手段でもあったのです。)私は、その野蛮なふるまいをまったく好まないのです。

 すると彼女は叫び声をあげた後に、私の身体をけだるく手ではねのけました。それは彼女にとって、単純で、当たり前かのような手軽さでした。私はカーペットのない固い地面にそのまま叩きつけられて、少しぼうっとしたまま彼女を見つめました。彼女は、嬉しそうな顔をして近づいてきました。私は近くにあった植木鉢に飛び移ろうとしましたが、彼女は私の右足を上手に捕まえて、宙づりにしました。そして私が気絶してしまうぐらいに何度か強く叩きました。

 ぼんやりとした意識のままで、私は彼女に体をこすりつけようと足元へ近づきました。なぜなら私は、彼女の脚の暖かさがとても好きだったのです。でも、おそらく彼女は、私が彼女をつまずかせようとしていると考えていました。

 おそらく、そうです。



Copyright © 2006 戸川皆既 / 編集: 短編