第43期 #17

休題──むかしむかし

 由紀は子供たちを見回しました。
「はじめますよ」
 子供たちは目をきらめかせて由紀を見ます。
「なんてかわいいのかしら」と由紀は思います。
「むかしむかし……」
 すると、子供たちは大声で言いました。
「むかしむかし」
 由紀は喜びを感じます。
「むかしむかしあるところに、それは美しい金色の毛並みの狐さんがいました。この狐さんには一つの変な癖があって」
 子供たちはいいました。
「一つの変な癖があって」
 由紀は笑顔で続けました。
「一つの癖があって、他の狐をいろいろ言うのです」
 すると、子供たちは言いました。
「いろいろ言うのです」
「狐さんたちが皆行ってしまいましたので、金色狐さんは、歌舞伎役者さんのようにこう言って見えを切ったのでしたね」
『いやねえ、人ってえのは切れるって、聞いていたからさあああ』
すると、ひげの男の人はわなわな体を震わせて言いました。
『すぐ切れるって!』
『そうじゃなくて、頭がいいって言ってるの』
狐さんはそう言って、ケツネケツネと笑うのです。
ひげの男は言いました。
『君は○だね』
『どうして?』
 ひげの男はニコリニコリと笑って言いました。
『俺、猟師なんだ』
 金色狐は議論に熱くなっていましたので、ついぬかりました。
『わかるように言え。わたしの耳のとんがり具合がいいとか、口のとんがり方が素敵だとか、具体的に言え』
 ひげの男は言いました。
『いやね、冬が近いからさ。俺、えりまきが欲しいだけなんだ』
 狐はハタとした顔になりました。そして一目散に逃げ出しました。狐さんは逃げながら、わかるって何かわかったような気がしました。でもね、遅かったの。狐さんの足は、鉄砲の玉より遅かったから。それで、かわいそうな狐さんは、きれいな、きれいな、金色のえりまきになりましたとさ」
 子供たちは言いました。
「なりましたとさ」
 由紀は言いました。
「これでお話はおしまいね」
 すると、子供たちは口々に言いました。
「そんなのやだ」
 由紀は言いました。
「お話は又にしましょうね」
「やだやだ」と子供たちは言いました。そして声を合わせて大声で言いました。
「お話してくれなくちゃやだあああ」
「それじゃ、あと一つだけよ。いいわね」
 子供たちは目をきらめかせてうなずきました。
「なんてかわいいのかしら」と由紀は思います。
「むかしむかし」
子供たちは大声で言いました。
「むかしむかし」
 由紀は喜びを感じます。
「むかしむかしあるところに……」



Copyright © 2006 しなの / 編集: 短編