第43期 #13
ハクチョウ座の館の閻魔様といえば寛大な御方と有名だ。
この館には前世を終えた人が時代を超えて集まる。
閻魔様は眼鏡を掛けて書類を書き込んでいる。
コンコン、しつれーします。
「オオクマの都から参りました、執事として働かせていただきますチュンセと申します」
鐘が3つ鳴り響いた。
コンコン
ジーンズにTシャツ。丸い眼鏡を高い鼻の上におさめた男が入ってきた。白人である。
男は左手の紙をチュンセに手渡した。指先が角張っているように見える。
「私の人生はよきものだったと思っています。自分の信念をまっとうしたものでした。私のつくってきた曲たちもそうです。私の命の音を止めたものも、わかっていると思います」
閻魔様は紙に菊の印を押し、男に渡した。天国行きである。
男は感謝を言って出ていった。
「入るッ」
違う男が入ってくる。
紙に「ローマ時代王帝」とある。顔にはどこか幼さが見えた。
「私は国の民のためにこの身をそそいできた。私は正義をまっとうしたと思っている」
ふむ。閻魔様が鼻を鳴らす。
「父親を殺したことはどう思っているのかね」
目が右、左へと動いたが、
「悲しい事故であった。父にとっても、私にとってもである」
閻魔様は菊の印を押して男に返した。チュンセは驚いている。
「これは天国行きということか」
男は喜んだ。
チュンセは閻魔様の顔を見るが何も言わない。
こんこん、失礼する。
落ち着いた声がドアから聞えてくる。
「これを」
『佐幕組副長』の文字がチュンセの目に入った。男の軍服の腰には2本、刀がぶち込まれている。じっと黙っていた。
「私は地獄に行くのかな。多くの官軍を切ったから。それはそれで仕方ないと思っている」
多くは語らない。二重から机の足元辺りを見つめている。
「お前は自分が正しいと思うことをまっとうできたか」
「尽くしはした」
ふむ、と菊の印が押された。
「天国に行けるのかね。そうか、うれしいよ。見守っていたい女がいたんだ。地獄ではかなわなかったからね」
男は一礼しドアを出ていった。
鐘がまた3つ鳴った。休憩の合図だ。
閻魔様はタバコに火を付けた。白紫色の煙を天井に吐いている。
「閻魔様、どういうものが地獄に行くのですか」
閻魔様はまたひとつ煙を吐いて、
「何も言わず、その道の善し悪しを聞く者だ。また次の人生でも自分の道を考えていくことができない」
と言った。
「考えるものは過去を洗えばまた正しい道へと進もうとする」
チュンセは、あぁなるほどと思った。