第42期 #6

王様のプリン

昔、西欧のある小さな国にプリン職人がいました。毎日王様にプリンを届けるのが仕事で99種類のプリンはどれもおいしく、王様はいつも3時になるのを心待ちにしています。
ある日プリンを作り始めてちょうど100種類目に、大変やわらかくトロけるようにおいしい最高のプリンを作りました。
「王様、こちらは私めがプリンを作り始めてちょうど100種類目になるプリンでございます」
王様はプリンにスプーンを滑り込ませ、プリンはその一角を持ち上げてなめらかに口に溶け込んでいきます。
「うむ、すばらしいプリンだ! よくやった職人。これを『なめらかプリン』と名付けることにしよう」
王様はもっともっと作ってくるよう言いました。もうなめらかプリンの虜です。そのプリン以外何も口に入らなくなってしまいました。他のお菓子が出ても王様の表情はうわの空、仕事も手に付きません。
しかしそんな生活が続いていると王様の体調がだんだんと悪くなり、ある日倒れてしまいました。大臣は原因をなめらかプリンだとして、職人を牢屋に閉じ込めてしまいました。王様はベッドの上で安静にし、食事もいろんなものを取るようにしました。その甲斐あって体の調子も回復しつつあります。しかしテーブルにあのプリンが出ることはなく、王様は寂しく思いました。
それを察した大臣は国中から名だたるプリン職人を集め、プリンを作らせました。しかし王様が満足するものはどれ1つありません。ひと口、それらのプリンを口にするとまた顔はうわの空。だんだんとまた仕事に手が付かなくなってしまいました。
「あぁ、またあのプリンが食べたい……」
見かねた大臣はついにあのプリン職人を牢屋から出しました。王様もそれを聞くと夜も寝られず明日の3時を心待ち。そしてついに3時、プリン職人が王様のもとに現れました。プリンを見るや否や、王様はさっそく口に滑り込ませます。
「うまい! やはりこのプリンが最高だ。余はもう1つ食べたいぞ」
しかし職人はプリンを出そうとはしません。
「どうしたのだ、もうないのか?」
「はい、その1つしか持ってきておりません。王様、その1つのプリンを一日の特別な楽しみとしていただけると大変うれしゅうございます」
王様は少し考えましたが、
「うむ、なるほど。お前の言うことも一理ある。これからは一日の楽しみとして、プリンを1つ食べることにしよう」
その国では3時にプリンを食べるのが今も習慣となっております。



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