第42期 #4
一室で、女と男性が他愛もない会話をしていた。ふと思い出したかのように男は女に話しかけた。「煙草を…買ってきてはくれないか?」「わかったわ。」女はすっと立ち上がると男から小銭をもらい、自販機へと足を運ばせた。
少し高めの煙草を1箱買うと、さっさと部屋に戻った。
男は「ありがとう」と一言礼を言うとさっそく煙草をすい始めた。女はその姿をずっと見ていた。前々から女は、この愛する男が煙草を吸う仕草が大好きだった。仕草だけじゃない。この男の全てが好きだった。
男は、吸い終わった一本の煙草を灰皿に押し付けると重苦しく口を開いた。「…本当にあれでいいのかね?」女は少し戸惑ったが、すぐにいつもの笑顔を浮かばせ「えぇ。大丈夫。」と告げた。「…すまないな。」「ううん。貴方は、あの人と幸せになって。」
好きだった男がみすみす他の女に取られていくのを黙ってみることしかできない自分…そんな自分を歯痒く思う。
けれど、愛する男が幸せならそれでいいと思った。男は女のことを良い部下としか思ってないのだから。女は、さよならと男に嘆くと茶色のコートを身にまといドアノブに手をかけた。
「…本当に、いいんだな。」君を、好きになることぐらい簡単だと男は付け加えた。けれど、女は「好きになるくらいだれだってできるわ。私が求めてるのは愛。偽りの愛はいらない。私は本物の愛を見つけるから。」と冷たく言い放った。部屋から出ると、女の瞳からは涙があふれ出ていた。
これでいい…これでよかったと嘆きながら。