第42期 #3
「もう、気をつけて頂戴よ。うっかりじゃ済まないんだから」 受話器の向こうの溜息まじりの声を、あたしは桜色に盛り上がった手首の傷を眺めながら聞いている。 「聞いてるの? すぐに駆けつけられる距離じゃないのよ」 「肝に銘じます」 声だけはしおらしく。傷跡の上から、包丁の先をまた当てて。少しずつ力を込めながら答える。すぐに駆けつけられる距離じゃないから。あたしが何をしていても、母さんには見えないから。