第42期 #2
オレは動物愛護を目的とするNPOに所属している。NPOといっても、会員はオレを入れてたったの五人しかいない。発足から十年、毎週日曜に街頭での新会員募集の呼びかけを欠かしていないというのに、わが街の人間の意識の低さにはあきれるばかりだ。人間の活動のかげでかけがえのない生物が死に瀕しているというのに、それに全く興味がないのだ。
オレたちのNPOが保護しようとしているのは、ある一種類の動物だ。本当はあらゆる種類の動物を対象としたいのだが、たった五人でそんなことができるはずもない。やむを得ず、オレたちにとって最も身近な存在である動物を一つ選び、その保護に全精力を傾けることにしている。
我々が最も憂慮しているのは、人間たちによるその動物への「駆除」という名の虐殺行為だった。人間の活動にとって「有害」であるとされたその動物は、様々な方法で「駆除」されている。現段階ではその動物は生息数も多く、すぐに絶滅が心配されるようなことはなかったが、家畜の天敵とみなされて徹底的に駆除され、短期間で著しく数を減らしてしまったニホンオオカミやリカオンなどの例を見れば、楽観はできない。何よりも、公然と虐殺が行なわれているという事実を放っておくわけにはいかない。かけがえのない、尊い命を平気で奪う、その蛮行を止めなければならない。
オレたちは再三再四、保健所やその他の行政機関に動物愛護の観点からその動物に対する虐殺行為を取り締まるよう要求したが、そのたびに門前払いを食わされている。行政の担当者たちは、命の尊さを力説するオレたちを冷たい眼で見るばかりだった。
今日もある商店街で、有毒ガスの散布によるその動物の一斉駆除が行なわれるという。オレたちはその実施を妨害するために、横断幕とプラカードを作成してその商店街でデモ行進を行なうことにした。たった五人では心許ないが、かけがえのない命を守るため、オレたちにできることをやるしかない。
問題の商店街に到着した。プラカードと横断幕を掲げ、胸を張って行進を始めると、住人たちの冷ややかな視線がオレたちを出迎えた。彼らの、明らかに狂人を見るような表情に、オレたちはわずかにひるんだものの、ここで引くわけにはいかない、と思い直し、毅然とした態度で進む。オレは、持ってきた拡声器を口に当て、大きく息を吸い込んでから叫んだ。
「かけがえのない命を守れ! ゴキブリ虐殺、絶対反対!」