第42期 #29
偽宝石屋は行為の最中良く喋った。今年はいろいろ起こったな。人類史上初の核の打ち合いが起こったり、全自動作曲ソフトで作られた曲がようやくヒットチャートで一位にもなった。
「半導体チップの最適設計なんかだともうずっと前から人間では出来なくて、コンピュータにやらせていたけれど、作曲ソフトの方が難しかったんだな。音階なんてたった12個しかないんだが」
ネ子は黙って聞いていた。気持ち良くてそれどころでは無いのだった。セックスが大好きだった。下半身がびくびくと波打っていた。おまんこがとろとろになっていた。
「ネ子は良い子だね。ほら、これで足りるかい」
行為が終わると偽宝石屋は金と、そして古いギターを渡す。ネ子は何か楽器が欲しいと言っていた。そんなことを忘れていたネ子は、裸のままぼんやりとギターを受け取る。
「ネ子はかわいいね。あとはネ子に男性器さえあれば完璧なのにね」
「ねえ、これどうやって弾くの」
「好きに弾けば良いんだよ」
「ねえ、これどうやって弾くの」
「好きに弾けば良いのよ」
「ふうん」
砂浜に、ネ子とコーギーは並んで座った。冬の海はまだ凍っていて、風は冷たかった。皆楽しそうに海の上を歩いたり、走り回ったりしていた。
「どう、格好良い?」
コーギーは立ち上がってギターを構えた。
「格好良い、格好良い」
コーギーは元ダンサーで、王子様のように美しかった。それで女装して客を取るものだから、とても人気があった。今は男の方が好き者の間では流行っていて、女よりもずっと儲かる。
コーギーはよろよろと踊った。数年前に事故で足を痛めていた。コーギーはくるくると回った。何度も転んだ。転びながら、コーギーは踊った。踊る。踊る。
「格好良いよ、とても」
「足の怪我は、事故じゃ無いんだよ」
立ち上がりながら、唐突にコーギーは言った。
「事故じゃないんだ。自分で切った。ナイフで切った。何度も切った」
遠くから音楽が聞こえる。拙い生バンドの演奏を、皆楽しそうに聴いている。
「でももうすぐ治る。僕の足は、もうすぐ治る。どうしようね」
「コーギー」
「僕はまだ27だからね。あと30年は生きる。ねえ、ギターは、どうやって、弾くんだい。どうやって、弾くんだい」
「好きに弾けば良いのだって。好きに弾いてよコーギー」
コーギーはギターを弾く。ばちんと音を立てて弦が切れる。二人は笑い転げた。遠くでは音楽。皆が歌っている。楽しそうに歌っている。