第42期 #23

カーヴ

 ジョナサン小平店の副支配人が突然店に来なくなった。理由は分からない。電話も繋がらない。
 副支配人は女性だ。背が高く制服の白いシャツがよく似合っていて、吊り上がり気味の瞳でいつでも店内を隈なく見回している。アイシャドウは青ざめていた。有能で見習うべき人だ。動作が機敏で尚且つ女性的な優雅さも持っている。短い言葉で的確な指示を出す。それを見るのはバイト中の楽しみだったから、それを鑑賞できないのは残念に思う。
 副支配人が空けたシフトの穴は俺が埋めた。夏季休業中の学生だった俺には時間が余っていた。一週間経ったが副支配人とは連絡がつかず、支配人は実家に電話した。副支配人は一人暮らしだ。副支配人の母親は何も知らない。副支配人のアパートに行けば、ポストに一週間分の新聞が溜まっていた。警察沙汰になった。シフトの穴は引き続き俺が埋める。支配人から、期待しているよと言われた。
 警察によれば副支配人はアメリカにいるらしかった。生きていると分かると不可解さだけが残った。副支配人は仕事に対して情熱を傾けていたはずだ。そう感じていた俺には、突然の職場放棄は理解しかねる。更に二週間して副支配人が店に帰ってきた。申し開きをしてくれた。
「ヒップアップの整形手術をしてきました」
 副支配人は失踪直前、ロト6なる宝くじに当選して小金を得た。すると前々から我慢のならなかった尻の薄さを解消したくなり、豊尻手術を受ける決意をした。ただ日本の豊尻手術の施術レベルは低い。そこで副支配人は過去を振り切る思いで飛行機に乗った。
 責任能力欠如として副支配人は解雇された。しかしこれで良い。副支配人の膨れ上がったヒップを納める寸法の制服は恐らく無い。副支配人の尻は、熟した果実の曲線を描いていた。
「ありがとう」副支配人が俺に言った。「貴方が私の代わりに働いてくれたんですってね」
 俺は無言で会釈した。そしてどうにも我慢が利かず、副支配人が振り向いた隙を狙い、豊満な尻に右の掌で接触した。思いの外硬く、失望した。すると副支配人は素早く俺に向き直り、怒りを噛殺した不自然な笑顔でもう一度「ありがとう」と言った。
 その夜に俺は副支配人にメールした。謝罪の文面の。しかし返信は無かった。返信が無ければ意味が無い。いや俺のメールを見た際の表情さえ分かれば満足できた。がそのどちらも無い。新しい副支配人がやってきた。男だ。俺のシフトは減った。



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