第42期 #18

バラ3輪―ちょっと休憩

「それじゃ、はじめますよ」
由紀は子供たちを見回して言いました。
子供たちは目をきらめかせています。
「なんてかわいいのかしら」と由紀は思います。
「……むかしむかし」
子供たちは大声で言いました。
「むかしむかし」
 由紀は喜びを感じます。
「むかしむかしあるところに、それは美しい金色の毛並みの狐さんがいました。この狐さんには一つの変な癖があって」
 子供たちはいいました。
「一つの変な癖があって」
 由紀は笑顔で続けました。
「一つの癖があって、他の狐をいろいろ言うのです」
子供たちは言いました。
「いろいろ言うのです」
「白狐に言いました。君は白だから×。白狐が言いました。どうして白だと×なの。金色狐は言いました。白だからだ! 白狐は言いました。それじゃなんだかわからない」
 子供たちは一斉に言いました。
「それじゃなんだかわからない!」
「銀狐に言いました。君は銀だから△。銀狐が言いました。どうして銀だと△なの。金色狐は言いました。銀だからだ! 銀狐は言いました。それじゃなんだかわからない」
 子供たちは一斉に言いました。
「それじゃなんだかわからない!」
「金狐に言いました。君は金だから○。金狐が言いました。どうして金だと○なの。金色狐は言いました。金だからだ! 金狐は言いました。それじゃなんだかわからない」
 子供たちは一斉に言いました。
「それじゃなんだかわからない!」
「狐たちも声を合わせて言いました。
『それじゃなんだかわからない!』
狐たちは皆向こうへ行ってしまいました。金色狐は手持ち無沙汰になりました。そこへ黒ひげの男がやって来ましたので金色狐は言いました。
『君は×だね』
ひげの男は言いました。
『どうして?』
『君の顔はとがってない。蛙のように平べったい。耳は丸くて立ってない。二本の足で立っている。醜いお腹を見せている』
ひげの男は言いました。
『それじゃ批評になってない。わかるように説明しなきゃ』
 金色狐は言いました。
『人がそんなことを言うのか。人が。しゃれとか何とかじゃなくて、そんなことを人が、他人が言うのか』そう言ってから、ちょっとおあにいさん風にいなせに直ってこう付け加えました。
『いやね、人ってのは切れるって聞いていたからさ』」
由紀は言いました。
「ああ、時間が来ちゃたわね」
すると子供たちは口々に言いました。
「そんなのやだあ」
そして声を合わせて言いました。
「お話してくれなきゃやだああ」



Copyright © 2006 しなの / 編集: 短編