第42期 #13
バルコニーから俯瞰する風景には沢山の営みがあった。
地上の星。蠢く光の一筋。中には赤い一筋もあった。
そのなかの一つを指でつまんで潰した。
もちろんそんな事が出来るわけは無い、でも今日くらいはその光が消えてくれれば、と思った。
「雄治、いよいよ明日だな。」
俺は心底静かにして欲しいと思った。
親父の為にも自分の為にもそう思った。
少し寒くなってきたので、自室に戻ることにした。
自分は蛍光灯をつけないまま、テレビをつけた。
テレビから流れる情報はどれも無益で、どうしようもなく腹立たしく思えた。
「離陸の際にはシートベルトをお閉めください。」
至極当たり前のことを言ったのだろう。しかし自分は聞いていなかった。
前触れも無く、勝手にテレビが消えた。電源ボタンを押してもつく気配は無い。
もしやと思ってバルコニーに出てみると、俯瞰風景には星がなくなっていた。
この停電は自分と親父への贈り物に思えた。
「どうしたんだ!?」
そんなことは明白なことだった。
自分はそのままバルコニーにいることにした。
先ほどまでとはうってかわってしまった風景は、見慣れた町でも新鮮な物だった。
「大丈夫だ。」
もう理解していた。大丈夫なことなんて何一つ無かったこと。
自分でも気がつかない間に暗い、顔になっていた。
暗い顔と裏腹に、地上に星が帰ってきだした。
「生存者一名!」
室内ではテレビが勝手についている。
そして、柱時計がボーンボーンと鳴った。
00時00分
親父と乗客154名の命日がきた。
飛行機の中から見えた俯瞰風景を思い出さずにはいられない日。
自分は地上から目を離し空を見上げた。
そこにはもう一つの俯瞰風景が広がっていた。
もうどこにも逃げ場は無かった。