第41期 #3
風のように舞い、風のように敵を斬る―
何度聞いた台詞だろう。とてもではないがベタ過ぎる。だが、彼にはその言葉は合い過ぎている。怖いほどに。
『全ては復讐の為』
彼の合言葉だった。家族を奪われた、名前も知らぬ少女の為に、彼はそんな言葉を発した。
黒い帽子の下の、白銀の髪
それは彼の代名詞になった。
真冬の深夜、コンクリートの巨人、そんな言葉がつい出てしまうくらいの威圧感がある、ビルの前。彼はその格好で其処に居た。
自動ドアは彼を導くように開き、そして其処を潜ると直に、赤いランプが周囲に毒を吐くように回り、侵入者を知らせる機械音が黒板を引っ掻いた時よりも嫌悪感を呼ぶ音で響く。その10秒後、侵入者を葬るべく、機関銃を武装した、鼠を取ろうとする猫のような目付きの社員が彼の周りを囲む。
四面楚歌。確かにそうだった。しかし彼は腰に備えていた細剣を引き抜き、そして『風のように―』人体で出来た壁に衝突していく。
彼に金属の殺人蝿は当たる筈もなかった。風は銃弾を引き付けすらしない。
その10分後、そのビルには銃弾の跡と社員の亡骸しか残っていなかった。地獄絵図、この言葉が相似する景色が、ビルを覆っていた。
今、彼は『殺人鬼』として追われている。しかし、一般人の間では『英雄』である。名も知らぬ少女の為に自分を犠牲にした、英雄だと。
彼は今、「そんな過去もあったな」と、本当に懐かしい顔をする。
私はとっさに言う。「過去の記憶は自分が消えるまで残るんですよ。」
彼の白銀の髪が赤に支配されていくのを、彼の過去が昇天していくのを私は今、無念ながらも眺めている。彼の思い、彼の力は、私の銀色の金属発射機によって、林檎を潰すよりも容易く、本物の風と同化していった。