第41期 #13

真夜中のざわめき

・・カリッカリリッ・・・カリッコツン・・・ピシッ・・・
ふと目が覚める。枕元の携帯を取る。目を刺すような光に思わず目を細めながら、時刻を見る。
―1:48―
変な時間に目が覚めたな。携帯を元の場所に戻そうと布団から出した手が、たちまち冷気によって温度を奪われる。昼間とは正反対の時間。総ての物が息を潜め、やがて訪れる朝を待っている完全なる『静』の空間。
眠りに落ちそうになる脳とは反対に耳が音を捉える。何の音だろう?
カリッカリリッカリッコツン
耳を欹てると音の正体が掴めた。愛猫が食事をしている。フードに夢中になる余り、鼻先で皿を押してしまい壁に当たるコツン!という音まで聞こえる。起きていれば耳では捉えない音まで、明確に捉える。不思議なもので、音から日常的に視覚で捉える姿を容易に思い浮かべる事ができる。まもなくウトウトしかけた瞬間。
ピシッ!
天井の方から鋭い音がする。意識が覚醒し、暗闇の中を見つめる。耳ではなく目で音の正体を捉えようとする。
ピシッ
先ほどより幾分、柔らかな音がする。
あぁ何だ。家鳴りか。気温・室温の変化で柱や天井の木材が、ほんの僅かではあるが伸縮するのだという。
隣では4歳になる娘が穏やかな寝息を立てている。
スー ピスー スー ピスー
どうやら鼻が詰り気味のようだ。
ぴちゃぴちゃぴちゃ・・・
食事を終えた愛猫が軽やかなリズムを刻みながら、喉を潤している。
真夜中は意外と音に溢れている。耳を澄ませば上空を渡る風の音も聞こえる。娘の布団を掛けなおそうと上体を起こす。おかしい。はっきりと見えている訳ではないが、妻の寝息が聞こえない。気配そのもがない。目をこらしてその空間を見る。トイレにでも起きたのか?寒い中、布団から出たくない思いから耳で、妻の姿を捉えようとする。
「うん。大丈夫。旦那は寝てる。うん。」
愛猫の為に細く開けたドアの隙間から、妻の押し殺した声が聞こえる。どうやら電話をしているらしい。こんな時間に?更に耳を澄ませ、妻の表情や電話の相手を捉えようとする。
「うん。私も楽しみにしてる。・・・うん・・・大好きよ。じゃぁ・・・おやすみ」
流石に電話の相手までは判らなかったが・・・まさか!!妻が浮気?妻が戻ってくる気配に慌てて布団に潜り込む。もう何も聞こえなかった。早鐘のように脈打つ心臓の音以外は・・・



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