第40期 #29

あの時、僕は

 最短距離の思考で考えると。たった一つの答えに行き着いた。
 殺してしまった――。事実をそのままのみこむとそれ以外に答えが出てこない、目の前に転がっている死体は明らかに僕が手を下したものだ。
 ……こういう時にこんな気持ちになるのだろうか、殺すつもりはなかったと。いつかそんな戯言を言って……と軽蔑と憐憫が半分ぐらい混じった目でニュースを見た自分を思い出す。
 今度は、誰が僕をその目で見つめるのだろう?
 そんなことを考えていると、いきなり恐怖に駆られるようになってきた。あんな目で見られるのは御免なのに、多分見られたことはないのに、僕はその目がどれだけいやな目か知っていて、そんなことにならないように、また思考をめぐらせた。
 この死体はどうしよう? という問題、見つからないほうがいいに決まっているのでできれば隠すのが常套手段なのだろう。
 だがしかしいったいどこに? 問答する時間すら惜しいという感覚で思考を高速回転させる、そんなことで簡単に答えが出てくることはないのだが。
 僕は一生懸命に考えた、多分人生で一番大きい問題だったと思う。罪悪感は感じなかった、ただ自分があの目で見られるのが怖くて、僕は全力で思考していた。
 その研ぎ澄まされた思考の中に突然、物音が聞こえてきた。
 誰かが来た!! 確実に近づいてくる気配、草むらに隠れて様子を伺うと、中年の男がこちらに向かってきているのが見えた、死体が見られる……。
 明らかな危機を感じつつも思考を冷やして、対処法を考える。
 そうだ、この男も殺してしまえばいい……!! 時間にして数瞬、覚悟を決めて、手頃な岩を両手で拾い上げる。
 幸いなことに、男は死体に気づくこともなく(今考えると彼は緑に溶け込んでいた)立小便をしている様子だった。
 息を潜め、確実に届く位置に移動して、岩を振り下ろす。いやな音と感触が伝わった次の瞬間には、醜く血を流しながら、男が地面に伏していた
 ため息をつきながら、僕は増えた死体の隠し場所を考えていた今度はちょっと大きい……。
 バッタと男を見比べながら、僕は再度ため息をついた



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