第40期 #14

薔薇

 私の通っている女子校は大規模であり、そして純近代風でもある。それ故にいわゆる「浮いた存在」が一人二人出てくるわけで、中にはこんな奴もいた。
 あれは確か5日前だったと記憶しているが、ある女生徒が私に相談をしてきた。彼女はどうやら私と同じクラスらしいが、その存在を確認するのは初めてだった。だが、彼女から出る「黒い雰囲気」を、その時私は確かに感じ取った。彼女はいわゆる「浮いた存在」なのであろう。彼女の話自体は興味が無かったので、ろくに聞いていなかったが、どうやら自殺志願者であるらしい。私にとってはコイツが死のうが生きようがどうでも良かったのだが、まあ適当に話を聞いてやることにした。が、これがいけなかったらしい。彼女は私のその態度に対して、唐突に癇癪を起こし、泣き喚き、突然走り去った。私はその一連の行動に僅かながら興味を抱き、彼女の後を追うことにした。校舎の脇にひっそりとある螺旋階段をカン、カン、と昇っていく。行き先は屋上だ。今時屋上から飛び降りるバカもいるのかと私は思ったが、どうやら彼女は本気らしい。際の格子にしがみつき、なにやら泣き叫んでいる。私が一歩近づくと、彼女は格子に足をかけた。そのまま一歩一歩彼女に近づいていったところ、彼女は何故か急に怯え始め、バカみたいに格子から滑り落ちた。私は何故かとっさに腕を掴んでしまった。私の腕にぶらさがった彼女は何とも醜い顔で涙ながらに助けを訴えているようだったが、私はこの女が自殺したかったということを思い出し、段々腕もだるくなってきたので、手をすっと離した。彼女は絶叫し、直後生々しい殴打の音が響いた。そのため私は幾分不愉快だったが、ふっと下を見やると美しい真紅の薔薇が咲いていたので、まあ良しとしようか。



Copyright © 2005 壱倉 / 編集: 短編