第40期 #13

こだから

 もののけなんかは怖くない。だってそうでしょ? 例えば抜け首なんかはおとなしいものじゃない。人の血を吸うって言われているけど、これは間違いだってぼくは知っているし。
 でも、ウチのオニババは別。何かにつけおとなしいぼくを叱りつけ、暴力を振るってくる。「お前なんかウチの子じゃない」ってね。怖いのはオニババ。それ以外は怖くない。
 だから、村人が「近寄っちゃなんね」って言ってる村外れにある神社の巨石に来たんだ。巨石の下には、恐ろしいもののけが封印されてるらしい。封印しているのは、巨石周りの7つの木球。子どもの頭くらいの大きさがあるケヤキの球は、一つ一つはつながっては無いけど大きな数珠みたい。
 その一つを、どっこいしょと抱えて持ち去った。恐ろしいもののけが蘇って、村をウチの鬼ババごと滅ぼしちゃえばいい。ぼくは、木球を持っているから襲われないと思う。もし襲われても森に逃げ込めば大丈夫。子どもだから隠れる隙間はたくさんある。きっと、ぼくだけは大丈夫。

 その晩、赤い大きな鬼がウチに来た。
「オラの宝物、盗るでね」
 巨石の下のもののけが木球を取り返しに来たんだ。なんてこった、こいつも鬼じゃないか。どうやら7つの木球は封印してたんじゃなくて、鎮魂していたらしい。
 大鬼の手が「返せ」の言葉とともに伸びてきたかと思うと、むんずと掴んで来た道を帰り始めた。
 ぼくは殺されなかったことにほっとしたけど、ちょっとだけ困っちゃった。
 何せ、木球と間違えてぼくの頭だけを大事そうに抱えているんだよ。
 ふと耳をすますと、はるか後方からぼくの名前を呼ぶオニババの声――いや、お母さんの声が近付いていた。



Copyright © 2005 瀬川潮 / 編集: 短編