第4期 #8

とらんすじぇにっくきゃっと

12月1日

今日茶色の猫を見た。目が、灰色に青がはいってかわいかった。一緒に遊んでいたら逃げた。


12月2日

また猫を見た。遊んでいるうちに飼い主らしいおじいさんが来た。かわいいねと言ったら、またおいでと言われた。なので明日も行く予定。


12月3日

おじいさんは向こうの家に住んでいる。猫と遊んで、お菓子をもらって帰った。


12月6日

今日は少し雪が降った。寒くて猫が外に出たがらないので、家の中で遊んだ。おじいさんは一人暮らしのようだ。


12月7日

おじいさんにさみしくないかときいてみた。ミーがいるから、とおじいさんは笑った。


12月9日

猫の名前の由来をきいた。春に生まれたから「美菜」と名づけられたときいているっておじいさんは言った。


12月18日

クリスマスツリーを飾った。おじいさんは、年のわりに力持ちみたい。ミーはおじいさんの周りをちょろちょろして離れなかった。ちょっとくやしい。


12月19日

このクリスマスツリーはなんか変、と思っておじいさんに言ったら、雪の綿が無いことに気がついて、一緒に探した。廊下の一番奥の部屋に入ったらカゴがたくさんあった。おじいさんは、ここには無い、と言った。綿は結局買ってきた。


12月22日

おじいさんはツリーを飾ってからウキウキしているようだ。


12月24日

おじいさんに、クリスマスは一人と一匹切り? ときいたら、笑って「美菜と二人だから大丈夫だよ」と言った。ふたり?

そう、美菜は私の妻だ。美菜に似た美菜を作るために僕は人よりも早く年をとってしまったよ。美菜が死んで、僕は研究所でラットではなく美菜の好きな猫の受精卵に美菜の遺伝子を入れた。何匹も繰り返すうちに、美菜と同じ青みがかった灰色の目の子猫が産まれた。美菜の生まれた地方ではたいして珍しくないらしい。美菜はクリスマスが大好きで、オーナメントも全部彼女がつくり、とてもこのツリーを大事にしていた。ご覧、このうちの家具は全て引っ掻き傷があるけど、これだけは一つもない。色素だけが染色体に組み込まれたのだろうと思っていた。こいつは遺伝子を組み込んだだけの猫だからね。言葉を話すわけでもない。でも、クリスマスに神様がこいつが美菜だという証拠をくれるんだ。美菜は私の美菜なんだよ。


おじいさんの話はもっと長かった。言っていることもよくわからなかったが、生き物について一生懸命勉強すれば僕にもミーが作れるらしい。


おじいさん、メリークリスマス。


Copyright © 2002 坂口与四郎 / 編集: 短編