第4期 #5

皮肉タイム

「僕は彼女の子供になりたい」
 うわ部屋に変態が一匹。俺はその時、格ゲーをしながらそう思ったのさ。
 だってソイツが言う彼女ってのは、俺の部屋に何でか飾られている絵の中の女なんだぜ?家族に囲まれてにっこりなその母親は、ムカつくぐらい何の変哲もない。いくら骨董市の安売り品だと言ってもさあ、あまりのダサさに泣けちゃうネ。
 でもソイツはまたまぁた臭いセリフを吐きやがった。
「この木漏れ日の緑色の光が優しくていいね。暖かい。彼女が子供を好きで、子供も彼女を好きな気持ちが分かる。いっそ、僕も子供になれたらいい。ホントに」
 片腹痛いよ。そうこっそり呟いて、テレビの中、俺は弱パンチで敵キャラを突付いていく。
「体内回帰願望なんてダサいよダサい。男はいつでもハードボイルドだぜ」
 もうおまえ最近マセちゃってー。難しい言葉使いたい年頃かあ?でも日本語おかしいの分かってる?
 とかいう評価がよく母親から飛んでくるこのご時世、でもこの言葉で返ってきたのは、ヤツの沈黙だった。何だ?と思って一瞬だけ振り返ると、ヤツは手に持っていた本を閉じて、どこか傷ついたような顔をしている。
「…そんなことは本当に孤独じゃないから言えるんだ」
 俺はしまったって思った。だってヤツには親が居ないから。俺はため息をついた。敵を反対側に寄せながら、アッパーカットをかけながら。
 テレビの前に溜まった微妙な雰囲気を散らそうと試みた。
「そんなこと言ったって仕方ないだろー。お前に親が居ないのは変えられない事実だしさあ。でも大丈夫だって。この世の中なんとかやってけるって。いろんなヤツがお前を助けてくれるよ。なあ?」
 さっきの言葉と違うね。そういう苦笑いが返ってくればしめたもの。後は、そうかあ?と笑いながら言って、そういえばと別の話題を持ってくれば、それでいつも通り。
 それで。

 無限パンチ。スライディング、距離をとって充填法で気を回復、マジックスレイラー。

 ごめん。でも僕は…行く。

 そこから追い討ちでキックしながら。
 え聞こえなかったと声を返す。

 弱パンチ、中パンチ、海の雷で相手を上げて更に天の涙で下に落とす。フィニッシュ。

 テレビから勝利を称える拍手が絶えないその時に。
 おい?と後ろを振り返る。

 ヤツが持っていた本がばさばさ音を立てて泣いている。
「おい?」
 俺の部屋に掲げられた絵には家族が増え。
 そして俺は独り。


Copyright © 2002 朽木花織 / 編集: 短編