第39期 #21

孤独な直方体

 音を立てて文庫本ページがめくられた。少なくともそう認識した。実際にはしなりが重力を伴って、その現象に従っただけなのだろうが。いつに無く哲学的になっている自分をおもい、自嘲する。
 閉鎖的空間におかれると、人の精神にはこのような変化が現れるのだろうか。四方を壁に囲まれ出口と呼べるドアは一つのみ。現在はそのドアにも鍵が掛かっている。部屋というには狭いそこは、内部から観察する限り直方体の形状をかたくなに守り続けている。ある意味の機能美といえるのかもしれない。
 一瞬、箱に閉じ込められている。そのような錯覚に陥る。
 いや、これは錯覚ではないだろう。いつもいつでも、俺は閉じ込められているというヴィジョンを感じ続けていた。窮屈な箱に無理矢理詰められるイメージ。
 しかも、時には自分でそれを選んでいるという皮肉な矛盾に自嘲の笑みを漏らしてしまう。体に染み付いたそのシステムは他人による強制を無しにしても俺をここへ閉じ込めるのだろう。
 箱は何も言わず、俺を閉じ込め続ける。時間が確実に動いている中、俺はその中でゆっくりとページをめくるのみなのだ。
 さて、ゆっくりと思考しよう、時間はたっぷりある。
 余りにも孤独で、余りにも清閑なこの瞬間をしっかりと心に刻んでいこう。そのように一大決心を決めたところに。他人の声が響いた。
「いつまでトイレ籠ってるの!? 次つまってるよ!!」



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