第39期 #2

夏の昼下がり

蝉が鳴きしぐれ、陽光が全てを黒く焦がす夏。
その中で夏休みの子供達が、元気よく遊んでる声が聞こえる。
その楽しそうな声と裏腹に、僕は苦痛の声を発していた。
そう、僕は今トイレで頑張ってるのだ。
一人暮らしの身としては、賞味期限など関係ないと、備え付けの冷蔵庫にあった二日前のサンドイッチを、食ったのが間違いだった。
僕は腹を擦りつつ、痛みにひたすら耐えるのだ。
夏のトイレはサウナと化し、額を大粒の汗が伝っていく。
熱いから汗を掻くのか、痛いから汗を掻くのか、解らない汗を掻き痛みの波が通り過ぎるのを待つ。
その時、玄関で物音がしたと思うと、そのまま誰かが入ってくる気配がした。
玄関脇のトイレを通り過ぎていく土足の足が、ドアの風穴から見えた。
まさかこんな状況の中に、泥棒がくるとは……最悪だ!
泥棒は、まさか住人がトイレにいるとは知らずに、奥のワンルームを物色して行っているんだろう。
今、出て行ったとしてもこの腹の痛みの前に、何も出来ずに終わるだけだ。このまま立てこもるのが最善だ。
そう考えてる僕の目の前のドアノブが回る。
いや駄目だろ!使用中だぞ!いや違う!ここに金は隠さないだろ!他を探してくれよ!
数秒の間に、様々な事が頭を駆け巡る。
願いをよそにドアは開き、僕は泥棒と見合ってしまった。
なんとも言いがたい時が流れる。
一人はトイレに座り大汗を掻き、一人はこの暑い中、黒いマスクをかぶり手袋をつけ、まさに泥棒の格好だ。
二人が見合ってる中を、申し訳なさそうな音を出しながら、おならが通り過ぎていく。
泥棒はゆっくりとドアを閉めていった。
「鍵は、ちゃんと閉めておけよ」
ドア越しに、泥棒の声が響いた。
返す言葉が呻きとなり、僕は再びぶり返した痛みの中で苦悶していた。

外では高らかな子供の笑い声が聞こえ、蝉の鳴き声が痛みの周波に同調するように、けたたましく鳴きだしていた。



Copyright © 2005 刻黯 / 編集: 短編