第39期 #14

風船ジャック

「例えるならまあ、この風船みたいなものです。我々は表面にいますが、内部は空洞で遠心力により……」
 壇上の男性がそこまで言ったとき銃声が響き、彼が手にした風船が「ぱん!」と弾けた。
「おとなしくしろ! 我々は革命組織『世界の荒鷲』だ。この会場、乗っ取ったッ!」
 突然、覆面をした一団がステージに出て来ると、その中の一人が手にした拡声器で吠えた。東京ドームのグラウンドで行われていたシンポジウムに衝撃が走る。
 司会やパネリストたちは皆、銃口にナイフをくくり付けたライフルを突き付けられホールド・アップ。内外野席からは、悪漢どもの機関銃が聴衆二万五千人を狙っていた。
「我々は世界諸国に三つの要求をする!」
 悪漢はそう言って、ナイフをどかっとテーブルに突き刺した。聴衆全員が「ひっ」と首をすくめる。
「ひとーつ、世界政府を早急に設立すること。ふたーつ、核兵器を廃絶すること。みーっつ、恒久的平和を実現し、地球を慈しむこと!」
 要求の声が響くと、球場全体が静まった。
 一瞬の後、ぱちぱちと散発的な拍手が上がったかと思うと、すぐに爆発的な歓声が沸き起こった。テレビカメラが会場を映し出す。
「待ってくれ」
 ステージ下からの声に、再び会場はしーんと静まり返った。
「それならなぜ、この会場を狙う? こんな迷惑な手段をとらなくても、世論や多くの人々が君達に協力するだろう!」
 運営側の責任者がマイクを手に主張した。
「なんだとぅ」
 組織のリーダーが色めき立ってグラウンドに降りた。
「いいか、よく聞けぇ!」
 そう言って彼は、ライフルの銃口を下に向けて振り上げた。銃口に付いたナイフをグラウンドに突き刺すつもりだ。
 その時、「地球空洞説の信憑性を世に発信するシンポジウム」の参加者全員が、両手で耳を塞いだ。



Copyright © 2005 瀬川潮 / 編集: 短編