第39期 #13

どっぺるげんちゃん

 左の胸ポケットから古びた写真と1枚の紙を取り出す。写真に写っているのは、親父、初美、初肇、元基、小3の俺、お袋。


 ハツミとハジメは6つ年上の姉と兄、ゲンキは同い年の弟。俺は双子家系の家庭に生まれた。初美と初肇は二卵性、俺と元基は一卵性。俺と元基はそっくりだった。初美と初肇を見ていても、俺たちほどは似てなかった。これが一と二の差か。

 俺はゲンキが嫌いだった。

 ゲンキは何でも俺の真似をした。そんなゲンキは、俺のドッペルゲンガーだった。だから、俺はゲンキのことを「ドッペルゲンチャン」と名付けた。ゲンキは皆から「ゲンチャン」と呼ばれてたから、この命名は我ながら上出来だった。
 ある日、俺は違う服が着たくて、わざわざ早く起きて一人で学校に行った。なのに、何を着ていったか知らないはずのドッペルゲンチャンは、同じ服を着てやってきた。呆然とする俺に「気分で選んだのにタツキとかぶっちゃったね」と笑って話すドッペル。完敗だった。俺が負けたのはこの時だけじゃない。文集「わたしとぼくの夢」の時もだ。別々に書いたのに、夢は同じだった。

 小3の2学期の終業式はクリスマスで、俺は、終わると一人、家へと走った。朝見れなかったプレゼントを早く開けたかったのだ。そんな俺が、家のドアを開けた時だった。
ドンっ!!
俺は突然頭を殴られた。…?…いや、殴られたような衝撃に襲われた。でも、すぐに痛みは引いた。何だったんだ、と思いつつも、俺はプレゼントのある部屋に走った。
 
 この日、俺は流行のゲームを手に入れて、嫌いだったゲンキを失った。酔っ払いの車にはねられたドッペルゲンチャンは、あっけなく俺の前から去った。
 
 俺はゲンキが嫌いだった。

 何でも真似したゲンキ。何でも似ていたゲンキ。この地球という星に一緒に生まれてきた、たった一人の存在。―…俺の大事な弟。
 


「何だ?写真か?」
先輩に話しかけられて、我に返った。
「写真と、その紙は?」
「これですか?」
俺は苦笑いをしながら、紙を渡した。
「懐かしいなぁ、こういうの。お、夢叶えたんじゃないか」
「えぇ、…なんか恥ずかしいっすね」
「…?何だ、隣の…ゲンキ?お前双子だったのか」
「…えぇ」
「このゲンキってやつは今何してるんだ?」
「…空の高いとこで夢を叶えた俺を羨んで見てると思いますよ」
「―…。そうか」
先輩はそう一言だけ言って、微笑んだ。
「今日も良いフライトにするぞ。竜基副操縦官。」



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