第38期 #8
「久しぶり」
「本当に久しぶりだね、写真見たときはびっくりしたよ」
「俺だってそうさ、まさか見合い相手が麻美とはね」
「でも、浩一、上手だったね。今日、いかにも初対面ですって顔してさ、あれなら叔母さんも、私たちが知り合いだって全然気づかないよ」
「お前だって、役者だよ。化粧もうまくなったし、結構、男だましてきたんじゃないの」
「何よ、私にだまされたのは、浩一だけ」
「だよな、お前、高志と別れてから、すぐ見合いして、真顔で結婚するって言ったから、信じちゃってさ」
「真顔じゃなくて泣き顔でしょう、それに、正確には、結婚もいいかなって言っただけだったのに、みんなにメールしちゃってさ」
「ごめん、本当に悪かった。早とちりしすぎだったよな。」
「本当に、結婚すると思ったの」
「だって、相手は、一流商社のエリート。そりゃ、高志もいい奴だったけど、お前を泣かせたと思ってたから。」
「それで、『祝!麻美が結婚、高志を乗り越えた』ってメールを出して、ロンドンに行ったんだ」
「本当に悪かった。由紀に聞いたけど、お前が高志を振ったんだってね。それに、見合いも、まだしてなかったって」
「そうよ、失礼よ。それに、あれから、私たちには、全く音信不通でさ。」
「そうなんだ、ロンドンに赴任して、やたら忙しくなっちゃってさ。ようやく、日本に帰ったのが半年前。あれから5年が経ったんだよね。」
「そう、5年。浩一が、お見合いを受けるって聞いて、私のこと忘れたのかと思ったわよ」
「俺もだよ。でも、何で、叔母様に知り合いだって言わなかっの」
「自分だって、同じじゃない。上司の方に、『こんなきれいな女性とお会いしたいのは勿論ですが、実は、大学時代のバイト先の知り合いで』って言えば良かったのに」
「それはさ、えーっと、つまり」
「つまり、何」
「俺、麻美が泣いていた理由、高志を振った理由、ずっと考えてたんだ。それで、どうしても、本当のこと知りたくて。でも、普通の再会じゃ、こんなこと聞けそうになくて。それに・・・」
「それに、何よ」
「それに、俺、お前に言いたいことがあってさ」
「私だって、浩一に、話したかったわ」
「何だよ、それ」
「浩一こそ、先に言いなさいよ」
「じゃ一緒に、言おうか」
「じゃ、1.2.3で言うね」
「1.2.3、麻美が好きだ」「1.2.3、浩一が好き」
「え、今、麻美、何て言った」
「今日のお見合いは成功だね」