第38期 #7

新しい恋

変則的な休日がある。突発的だから計画が立てられない。また,頓挫した時の落胆が耐えきれない。今日も暇な休日で全く嬉しくはない。
家の中にいるのも悲しくなるだけなので,ケータイの機種変更をしに出かけた。このケータイには前の彼女との色褪せたプリクラが貼ってある。女々しくも半年経っても剥がせない。

「油っぽい」と告げられて別れたのが半年前。多汗症じゃなくって存在に対して。斬新な表現。
剥がせば,全てが無かった事になりそうで怖かった。縒りを戻せるとか考えてないけど、自分で消せる程気持ちは整理できていない。

奇麗な店員は熱心にケータイの説明をしてくれる。在庫が有るか奥へ確認に行った時、隣のギャル店員も「こんなのも有りますよ」と、赤い機種を紹介してくれた。メール使い放題のその機種はとても若者っぽく思えた。程なくして戻ってきた奇麗な店員が「それよりもこれの方がラジオが聞けて楽しいですよ」と、赤いケータイを取り上げた。するとギャル店員が「お客様はこれ気に入ってたんですよね?」と問いかけてくる。キョドった私は、うまく言葉に表せられない。
若者らしさを取るか,ラジオを取るか。奇麗な店員が熱心に薦めてくれたのだから,ご厚意に・・・いや、それじゃあギャル店員が適当な仕事をしているって遠回しに言っている風に取られやしないか?
フル回転で脳を動かしていると、次第に二人の店員が言い争いを始めた。
お互いのおすすめポイントだの、社員と契約社員の軋轢だの、仕舞には、

「なによ、この出っ歯ラクダ!」
「なにを、このガリガリパンダ!」

声を荒げる奇麗な店員の右手に握られている僕のケータイは、もう苦しそうな位にギュウギュウギュウギュウ握りしめられて,電池蓋の所に貼ってあるプリクラが「ベロン」って捲れちゃって「思い出!」って思ったけど、それよりも奇麗な女性が僕のケータイを力強く握ってる事に「がんばれがんばれ」って念じずに入られなかった。

それは、失恋を自分自身では忘れられないからって、誰かに力を貸してもらおうなんて事じゃないんだ。僕のケータイを握っているってことがなんか自分をすっごい好きって言っているみたいでドキドキしちゃった。



Copyright © 2005 水島陸 / 編集: 短編