第37期 #9

三歳はお年頃

 薄暗い室内。小声で交わされる会話。
「ねぇアケミ、あんた最近気になる子、いないの?」
「何よ突然……そういうヨシコはどうなのよ。いるんでしょ? 気になる子」
「べ、別にいないけど……」
「隠したってダメ。あなたが自分から恋話を持ちかけるなんてそれ以外考えられないわ」
 腕を組みなおすアケミ。大きく息を吐くヨシコ。
「バレバレかぁ。へへ、相変わらず鋭いね」
「誰でもわかるわよそれぐらい。で? 誰なのよ? 気になるのって」
 しばしの沈黙。その後に挙がる一つの名前。
「……タカシくん。知ってる?」
「あぁ……彼ね。へぇ〜、あなたの好みは相変わらずね。でも彼、ちょっとだらしなくない?髪はボサボサだし、食事の時もやたらとがっついてるし……」
「何言ってるのよー。そこがいいんじゃない。ボサボサの髪に豪快な食事、野性味溢れててとっても素敵」
「そうかしら? ま、好みの問題なんだけどね
 苦笑いを浮かべるものとふくれっつらをするもの。
「むー。それじゃああんたはどんな子が好みなのよ」
「そおねぇ……私は手入れが行き届いているサラサラの髪で、物静かな、繊細な子がタイプね。ユウジくんとかいいかも」
「私とまるっきり正反対じゃない……」
「いいんじゃない? 女の友情は好みが違うほうが長続きするものよ」
「アケミ……」
 お互いの顔に出る笑顔。穏やかな空気。
「ま、今度私がタカシくんとヨシコを二人っきりにさせてあげる。応援するわ。あなたのタイプど真ん中でしょ、彼。ベストカップルの誕生ね。子供の顔が早くみたいわ」
「もうっ! 茶化さないでよっ!」
 バシッと背中を叩く音。照れ笑いと冷やかし笑い。
「いたた……あんた爪伸びてるわよ。ちゃんと手入れしとかないと彼に嫌われちゃうわよ。女のたしなみを……しっ!! 来たわ……」
 素早く、迅速に隠す身体。コツコツと壁越しに伝わる反響音。

――― ガチャ。

響く開錠の音。ぐるりと照らされる室内。そして聞こえる一人の声。

「ライオン小屋、異常なーし」

(了)



Copyright © 2005 藤代環 / 編集: 短編